第五話「空腹の贈り物 〜〜朝食は一日の源〜〜」

 ザックは目を覚まして周囲の景色に一瞬驚いた。そして、自分の今いる場所を思い出して納得した。

 ザックの寝ていたベッドは、一人で寝るには大きすぎる大きさだった。さらに、藁でなく綿のベッドにはリンネルのシーツが掛けられている。ついでに、身体にかかっていたのは虫の湧いていないふわふわの羊毛でできた毛布であった。
 こんな寝具を使えるのは、かなり裕福な貴族ぐらいである。下手すると王族レベルかもしれない。

 部屋の大きさはザックの住んでいた家と比べて四倍以上はあった。

 シミ一つない白い壁には保温のためのタペストリーが飾られてあり、床には毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。窓も高級な透明なガラスがはめられているのを、ザックは最初、戸板が開いていると勘違いしたぐらいであった。
 さらに驚いたことに、ザックも噂でしか聞いた事のない、水道がついていた。蛇口の栓を緩めると水が出てくる仕組みに昨夜はかなり驚いた。手や顔を洗うだけでなく、簡単な調理ぐらいはできるように熱魔法を組み込んだ七輪まで置いてあった。
 当然のように、部屋の明かりはろうそくや油ではなく、魔法の明かりであった。

 それらの備品に関する説明の書かれた紙がテーブルの上になければ、ザックは何がなにやら理解するのに夜中まで起きていなければならなかっただろう。

 その説明書の置いてあったテーブルをみると、ガラス製の水差しにグラスが置いてあった。

「これだけでも売ったら、半月分の生活費になるな」

 ザックは貧乏性の習いか調度品の値踏みをした。そして、この部屋が特別でないというのであれば、魔物たちの世界と人間の世界での生活水準の格差は雲泥ほどあることを思い知った。

「人間の勝てる相手じゃないな」

 親魔物国家に暮らしているザックですら、驚愕する部屋であった。

 実際、昨晩、この部屋に入ってから、その豪華さに驚き、何かに騙されているのではないかと真剣に考え込んでいた。しかし、竜騎士団が、候補生という身分にもかかわらず、これだけの待遇をしてくれることは、それだけ国にとって重要な組織であり、これに見合うだけの重責と危険があるのだと理解した。

「早まったかもしれないが、なるようになるか」

 ザックはベッドから降りると、水道の栓を緩め、水盆に水を溜めると顔を洗い、それまで着ていたツギハギだらけの服ではなく、部屋に用意されていた服に着替えた。

 綿のシャツは生成りではなく、白く漂白されていて、少しまぶしいぐらいであった。一瞬、袖を通すのがためらわれたが、着ないわけにはいかないので、柔らかな袖に腕を通した。
 ズボンは、厚手の綿生地で、こちらは黒く染色されていた。ただ、内股と尻の部分には革が当てられていた。
 幅広の革のベルトを締めて、位置を少し調整した。ベルトには色々と金具があり、説明書きには、騎竜に乗る時に命綱などをつけるものや、装備品をぶら下げるためのものだと書かれていた。

 ザックは服と一緒に置いてあった短刀をベルトに下げた。ザックも護身用の短剣を持ってはいたが、ナマクラすぎて使い物にならないので置いてきた。

「この金具は……自分の愛用の剣などを下げるのにご使用ください。って書いてあるけど、そんなものはないしな……あ、そうだ」

 ザックは持ってきた数少ない荷物を思い出し、その中から鉈を入れておく革製の鞘を取り出した。鞘の中には鉈は入っておらず、一本の薄汚れた安物の笛が入っていた。

「何もぶら下げないよりかは格好がつくな」

 給料が出たら、自分が扱えそうな剣を街の武器屋にでも探しにいこうと思いつつ、鞘をベルトの金具に固定した。

 ジャケットは、臙脂色のコーデュロイで保温性が高そうな生地で、丈は尻の下ぐらいまでのやや長めになっている。左胸には竜と槍が一体となったデザイン――竜騎士団の紋章が金色の刺繍糸で刺繍されてあった。袖口にも金の輪が一本入っていた。

 大きな鏡に自分の姿を映すと、その見慣れない自分の姿に違和感しかなく、照れ隠しのように苦笑いを浮かべた。
 ザックは、先日の晩餐会のようなところで給仕などの仕事もしていた。その時は衣装を貸し出されるので、綺麗な服を着た自分の姿には比較的見慣れている方だが、鏡の中にいる自分は給仕を受ける側、まるで貴族の子弟のような格好をした自分が映っていた。

「そのうち、慣れるといいんだけどな」

 黒髪をかいてため息をついたが、いつまでも恥ずかしがるわけにはいかないと気分を切り替えた。

 とにもかくにも、準備を万端に整え終えて、ザックは廊下に出る扉を開いて東の空を確認した。ようやく白み始めて、空がほのかに明るくなってきていた。

「場所が変わって、朝、起きれるか不安だったが、寝坊しなくて良かった」

 ザックは胸をなでおろ
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