第四話「謎の竜騎士団基地 〜〜独身寮を案内せよ〜〜」

 ユードラニナは、ザックの手を引いて本部棟の建物に一旦入った。

「この建物が竜騎士団本部だ。本当はドラゴニア竜騎士団作戦統合本部というのが正式名称だが、面倒なので皆、本部と呼んでいる」

 建物の中は、窓から入る光のほかに、天井にうっすらと明かりがついていた。その照明に照らし出されたのは、外観に負けず劣らず華美な内装であった。

「建物自体は旧帝国時代に上民――他の国でいうところの貴族のことだ。その子弟が通う学校だったが、今は改修して竜騎士団が使っている」

 廊下を歩きながらユードラニナが説明した。ザックはただの廊下なのに彫刻などで化粧の施された窓枠や柱などを見て、軽く驚嘆の声を上げた。

「旧帝国時代の建物は皇国内に数多く残っているが、その中でもこの建物はほぼ戦火に焼かれることがなかったので貴重らしい。建築物に興味ある観光客がオプショナルツアーでよく見学に来ている」

 ユードラニナはそういうことに興味がないのか、あっさりとした説明であった。ザックの方は、何でも屋をしていた時に建築現場にはよく行っていたので、その細かな仕事の凄さがわかり感心した。これほどのものなら観光客が来るというのも納得した。
 自分の生活水準の低さを差し引いても、竜騎士団本部の内装は、見たことはないが大国の宮殿に匹敵するのじゃないかと感じた。ザックは物珍しさに鳩のように首を動かし周りをキョロキョロと見ていた。ユードラニナに手を引っ張られていなければ、何度か柱か壁にぶち当たっていただろう。

「ところで、本部は何をするところなんだ? 大事なところというのはわかるんだが」

 建築物の説明は無理だろうと諦め、基本的なことを質問した。

「作戦統合本部は、その名の通り、竜騎士団の作戦を考えて、それを元に各部隊に指令を出したりするところだ。他にも、騎士団団員の人事を決めたり、行事の段取りをする」
「行事?」

 ザックは先の二つはわかったが、最後の行事のところで首をひねった。

「騎士団で花見に行ったり、温泉に行ったりすることだ。他にも竜騎士団の畑で作ったのマカイモ掘りもある。初摘みの葡萄を騎士団の独身の竜たちで踏んでお酒を造ったりするし……ああ、閲兵式もあったな」

 ユードラニナは定番らしい行事を指折って挙げていった。ザックは、閲兵式がいの一番じゃないことにはツっこまないでおいた。

「それから本部は暇な団員がたむろする場所でもある。酒は禁止だが、菓子などは許可されているから、団員たちは空いている部屋でお茶会などしているな」

 ザックは竜たちのお茶会を想像して、ちょっと顔を和ませた。

「あとは、竜騎士団の訓練もこの本部が拠点になる。候補生の訓練は第十教導部隊の管轄となるが、教導部隊は騎士団長直属の第零特部隊と同様、この本部が駐屯地だからな」
「そういえば、ユニはその第零特部隊だったんだよな? じゃあ、俺と同じ駐屯地なんだな」

 ザックが思い出したように言うと、ユードラニナは顔を背けた。その様子に、ザックは「違ったか?」と思った。

「そ、そうだ。私の所属はザックの言うとおり零特隊だ。零特隊は、騎士団長直属の精鋭部隊と言われている」

 何か少し上ずった声でユードラニナが答えると、ザックは自分の記憶が正しかったことに安心した。

「すごいんだな、ユニは」
「そ、そんなことはない。ちょっと長く生きているだけだ。自慢するようなことじゃない」

 素直に感心するザックにユードラニナは慌てるように否定すると廊下を曲がり、突き当たりの扉を開けた。

 建物の裏に抜けるための扉らしく、夕闇に沈もうとしている裏庭に出た。

「もう、こんなに日が傾いて来ているのか」

 ついさっきまではまだ日が高いイメージがあったため、ザックはどれほど長く騎士団本部にいたのかと時間感覚が狂った。

「ドラゴニアは山岳地帯にあるから日の出は遅く、日の入りは早いんだ。その上、魔物の魔力で空はあっという間に黄昏時になる。だから、街に出ても油断しているとあっという間に夜になってしまう」

 ユードラニナはザックに改めて注意した。ここは親魔物国家でなく、魔物国家である。時間の流れすら、人間の世界と異なると思っておいたほうが良いと。

「肝に銘じておくよ。しかし、随分と広い裏庭だな」

 ザックはそろそろ耳にタコができそうだと話を切り替えた。

 裏庭というよりも、ちょっとした広場ほどの面積があり、外周部は何人もの人間が何度も走って踏み固められた土の地面だが、中央は芝生が植えられてあり、緑の芝を赤い夕日が染め上げていた。

「ここは基礎訓練をするための練兵場だ。今日は休息日だから誰も訓練していないがな」

 ユードラニナは、訓練は基本的に五日単位で行われて、四日訓練して、一日休みというサイクル
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