第三話「故郷はドラゴニア 〜〜ドラゴニアぷち観光案内〜〜」

 竜皇国ドラゴニアと聞けば、外界と隔絶した陸の孤島、霊峰そびえる僻地と想像する人間が大多数だろう。その想像は確かに間違いではない。だが、今の時代は親魔物国家の主要都市間で転送ゲートを設けていることがほとんどであった。それを使えば、陸路で一ヶ月以上かかる旅も、ゲートの乗り継ぎを含めて一日ほどでドラゴニアに到着することができた。

「本当は、ドラゴニアとの国境付近の都市までは転送ゲートを使って、最後は飛行船でドラゴニア入りするのが観光客に人気の入国ルートなのだ。竜騎士団でも、その飛行船護衛の任務で一緒に飛んだりもするから尚更な」

 ザックはあっけなくたどり着いてしまったドラゴニアに、少し拍子抜けしていたので、その説明には納得した。
 確かに、旅をした気分があまりないのは、遠路はるばるやってきた観光客とすれば旅の達成感を得れず、なんだかありがたみが薄れてしまう。せっかく旅してきたのに、それはもったいない。

 とはいえ、転送ゲートのターミナル駅を出て目に映る街並みは、ザックが住んでいた街とは大きく違って異国情緒に満ち溢れていた。

「ここが、ドラゴニア……」

 まず目に入ったのは、峻険な山へと一直線に続いている恐ろしく幅広い通りであった。そして、通りは山の中腹付近あたりからは魔力の雲に覆われて所々見えなくなっていた。頂上ともなると完全に覆い隠されて、山の頂きは全く見えなかった。

「目の前のこの幅広い道がメインストリートの竜翼通りだ。この竜翼通りは、番いの儀凱旋パレードを行ったり、有事の際には、ここを滑走路にして出撃する。メインストリートだけに飲食店やお土産物、色々な店が立ち並んでもいるので、観光客も多いスポットだ」

 ユードラニナが目の前の幅広い通りの説明をした。竜騎士団に所属する独身の竜たちは観光ガイドとしても登録しているものも多く、彼女もガイドはしていないが、一応、その講習を受けているということだった。

「そして、この道が続く先、魔力の雲に隠れて見えないが、山の頂にあるのがドラゴニア城。我らが敬愛する女王陛下の居城だ。城に着くまでの雲に覆われた周辺からは竜たちが多く住む住居区域になっている」

 通りが伸びた先にある高くそびえた山を黒曜石のような輝きをした爪で指差した。

 ターミナル駅のある麓付近は人間の世界と変わらない青空と緑の広がる明緑魔界だが、あの雲の中は暗黒魔界になっているのは想像するまでもなかった。おそらく、頂上ともなると、かなりの魔力濃度になっているだろう。

「居住区のあたりは濃厚な魔物の魔力で覆われているので、一人で迷い込んだら貞操の保障はできない。非常に危険な地帯だ。よく憶えておけ」

 ザックはその説明に生唾を飲み込んだ。ここは親魔物国家ではなく、魔物国家であることを再認識した。

「とはいえ、麓のあたりは普通の親魔物国家とさほど変わらない魔力の濃度だから心配する必要はない」

 続く言葉に少しほっとした。確かに、竜翼通りを歩いている魔物や人間たちが観光やデートを楽しんでいる姿は親魔物国家でよく見かける光景だった。

「だが、竜翼通りから一歩、裏通りに入れば、その限りではない。竜の寝床横丁をはじめとするアンダーグラウンドの場所が点在する。危険極まりないから慣れないうちは一人で出歩くのは危険だということも忘れるな」

「安心させるのか、脅すのかはっきりして欲しいな」

 心配と安心が二転三転する説明にザックは苦笑を漏らした。

「私が言いたいのは! お店も多くて、にぎやかな場所だから油断しがちだが、すぐそばに危険もあるということだ。それに、ここはショッピングをする観光客には一番の観光スポットでもある。人が多いからはぐれないようにしろ!」

 ユードラニナはザックの手を握り、少し不器用に手を引いた。大きな彼女の手に包まれるように握られた手が少し熱く感じ、ザックは「竜の体温は高めなのかな?」と、どうでもいいことを考えながら、手を引かれるままに彼女について行った。

 通りではザックたちと同じように照れながらも男性の手を引いている竜たちが多数いた。おそらく、彼女らが竜騎士団に所属している観光ガイドなのだろう。騎士団長であるアルトイーリスの姿を認めると、彼女に向かって小さく敬礼していた。

「本当に騎士団長なんだな」

 ザックがすごく失礼なことを考えていると、一向は竜翼通りに面した質素な建物に入った。
 建物は、通りに並ぶ他のお洒落なものとは違い、質実剛健で丈夫さが最優先、漆喰で外壁を白くしているのがせめてもの化粧という無骨な外観をしていた。さらに、他と違って屋根がなかった。正確に言えば、陸屋根と呼ばれる、屋上がほぼ平らで、排水のためのゆるい水勾配があるだけの屋根であった。

 建物の中は薄暗くひんやりと
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