魔女裁判


 世の中は理不尽で満ちている。

 無理が横行しすぎて道理など出る幕もない。



 冤罪。



 理不尽の極みの一つと言っていいだろう。

 何の罪もない人間を処罰する。

 歴史を紐解けば、そんな裁判記録がいくらでも出てくる。

 だが、ほとんど記録されない冤罪裁判もあった。



 魔女裁判。



 被告は罪ありきで裁かれた。

 裁判という名をつけた私刑。



 これは、そんな魔女裁判で奇跡的に記録の残っていた一つである。





 木槌が台を二回叩く音が法廷に響いた。

「これより裁判を始めます。セイ粛に」

 一段高いところに座っている黒のガウン、法服を着た幼い少女が、凛々しくも宣言した。

 少女のみに許された伝説の髪型、ツインテールに黒髪を結び、くりっと大きな瞳はキラキラとまぶしく、ややぷっくりとした頬はすべすべで、注意している口はちっちゃくて愛らしい。世界中探してもこれほど可愛い裁判長は他にいないだろう。

 そのかわいい裁判長の声に、ぺちゃくちゃとおしゃべりしていた傍聴人席の魔女やファミリアの少女たちが静かになった。

 その様子に満足して、凛々し可愛い裁判長の魔女はエンジェルスマイルを輝かせた。

 裁判長の前には書記官役と速記官役のファミリアが二人、お絵かき帳にクレパスを持って構えていた。

 そして、その前のスペースでは、左右の壁際に陣取った二人の魔女が向き合って対峙していた。

 裁判長から見て右側が検察側となり、そこには眼鏡をかけて、明るい灰色のおかっぱ頭をした真面目そうな魔女が自信満々で席についていた。

 そして、左側は弁護側。ピンク色の髪を三つ編みにした少し気の弱そうな、だが優しそうな魔女が不安を一生懸命隠して座っていた。

 それらの魔女やファミリアたちの中心、被告人席には二十代半ばの野暮ったい、ちょっと太り気味な青年がスーツ姿で、刑務官役のファミリアに伴われ呆然と立っていた。

「いったい、俺は……」

 青年が呟きを漏らすと裁判長の木槌が激しく鳴らされた。

「被告人は求められるとき以外、発言を控えるように」

 勝ち誇ったような顔をして命令した。彼女は木槌の魔力にとりつかれたようだ。青年はとりあえず黙るしかなかった。

「では、裁判を始めます。被告人、権俵平蔵。二十六歳。職業、海山商事勤務の会社員。住所は――日本のどっか。以上間違いないですね?」

「間違いありませんけど、いったい、これは?」

 すこぶる適当な人定質問がされて答えはしたが、質問を返した。

「何回同じことを言わせればいいんですか?」

 裁判長に木槌を構えて睨みつけられ、青年は「すいません」と謝って沈黙した。

 青年は通勤しようと家を出たところを幼女に声をかけられ、話を聞こうとしゃがみこんだところを後ろから何者かに殴られ、気がついたらここにいた。まったくもって、意味がわからなかった。

「では、検察官。起訴状を朗読してください」

 眼鏡の魔女が立ち上がった。

「被告人は、ロリコンであるにもかかわらず、その事実を隠蔽し、幼い少女のお兄ちゃんとならなかった。罪状、ロリコン隠匿罪およびお兄ちゃん未就罪」

 被告人の平蔵は反論しようとしたが、裁判長が木槌を振り上げているのを見て言葉を飲み込んだ。

「被告人は終始チン黙できます。個々の質問にチン述を拒めます。チン述することもできます。被告人がチン述したことは証拠になります」

 裁判長がそう告げると弁護士の三つ編みの魔女が手を挙げた。

「弁護側は、検察の起訴状をヒニンします。権俵平蔵さんは、ロリコンではありません」

「被告人もですか?」

 裁判長に訊かれて、しゃべっていいのか迷ったが、平蔵は口を開いた。

「はい。俺、ロリコンじゃないです」

 その言葉に傍聴人席がざわついた。

「静粛に!」

 木槌が鳴り響いた。裁判長は木槌を打てて、ちょっと満足そうに鼻を膨らませていた。

「検察は冒頭チン述してください」

「被告人の権俵平蔵は、小中高と共学の学校に通学し、高校卒業後、都会の文系大学に進学しています。
 大学在学中は、ファミレスという女子高生、女子大生の大勢いる職場で長期的にバイトをしており、バイトリーダーにもなった経験があります。
 大学卒業後、海山商事に就職。社内および関連企業には事務職の女性が大勢います。
 ここまで女性との出会いのチャンスがたくさんあったにもかかわらず、二十六歳にして童貞です。しかも、恋人いない歴も年齢と一致します。それどころか、被告白回数はもちろん、告白回数が0です。
 さらに、これまで風俗店に行くこともなく過ごしています。
 加えて被告人の秘蜜の本棚にはロリコン雑誌が二冊あり、購入から二年三か月、三年五か月を経過して
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