「ぐぉおおおおおああああああッッ!!」
獣のような雄叫びが喉を飛び出す。痺れ茸の成分を取り込んだ僕の身体からは出るはずのない声だった。
だが、体組織を短時間で作り替えるレベルの魔力を注がれた身体は凄まじい勢いで代謝を行っており、痺れを生んでいたものは一瞬で分解されていた。
熱い、熱い、身体が熱い。
それだけにとどまらず、魔力を生み出す器官とされる心臓は狂ったように激しい膨張、収縮を繰り返し、左胸がはちきれんばかりに張り出している。
苦しい、苦しい、栄養が足りない。
人間ならば耐えられないほどの苦痛や飢餓感で、呆気なくショック死していたことだろう。しかし種から魔力が溢れた一瞬から、僕はもはや人間とは呼べない存在になっていた。
魔王の加護より、魔物の生み出す魔力は誰も傷つけない。だから僕が上げた雄叫びは痛みからではなく、尋常ならざる快楽からであった。
「(なんだこれなんだこれなんだこれはぁぁぁッ!?)」
僕の思考はピンク色の刺激に翻弄されていた。まともになどいられない快楽、気が狂わんばかりの劣情。今までになく張りつめた股間の分身は、しかし果てることなく、快感が臨界点を超えていても射精することはない。
その理由は理解している。僕の中に流れ込んだ魔力が語りかけてくるのだ。
(出せないッッッ!! カレルの、中でなくてはッッッ!! くそぉぉぉあああッッッ!!)
自分の中に異なる意志をもったナニカがいる。それは僕の男の象徴に集まり、急かしてくるのだ。
『カレルを襲え』と。
(フォーリオとやらの差し金かぁ……! 小賢しい真似をッ!!)
脳をかき回すような情欲の濁流を制する術はただ一つ。この興奮を彼女にぶつけること。それしかない。
躊躇いはあった。迷いもあった。
僕はいいのか。僕でいいのか。
しかし状況は逃げることを許さなかった。
自我を保つには自我を捨てるしかない。その矛盾を飲み込まなくては、その先に待つのは終わりのない煉獄だ。
やがて、僕は内なる声に屈服する。
その瞬間、胸の中の何かがくっきりとした輪郭を持った。
先ほどの苦しさが嘘のように消えるも、ただ淫欲だけが、立ち上る陽炎よりもさらに熱い炭火のようにくすぶっていた。
「え、エデルくん……?」
カレルが青ざめた顔で呼びかけてくる。
無理もないだろう、先ほどの僕の様子は傍から見れば、ともすれば死んでしまうと思いかねないほどに酷い有様だった筈だ。
目に涙を溜め、すがるように見つめてくる様は否応無しに庇護欲をそそったが、今の僕には逆効果だった。
「――ッと」
気合いを込め、飛び跳ねるように体を起こす。後ろ手を縛られていてもバランスを崩すことはなかった。ずいぶんと身体が軽い、これも魔力の影響だろうか。
驚きに目を見開くカレルへ、みなぎる情欲をありったけ込めた視線を送る。それだけで、彼女は頬を紅潮させて目を俯かせた。もじりと太股を擦らせたのを見るに、甘い痺れすら感じたのだろう。
ボソボソと詠唱し、手を縛っていた魔力の縄をほどく。あれだけ暴れたにも関わらずカレルを傷つけずに済んだのはこれのおかげだ。
だが、僕を縛るものは消えた。
カレルが身を守る術は失われた。
放たれた獣は、欲望のままに獲物を襲うだろう。
「カレル」
「……!」
「こっちに来るんだ」
獲物に向けて呼びかける。このような愚策が許されるのは人間同士だけだ。しかも圧倒的な力関係がなければ成り立たない。
「急に、なに……?」
「いいから来い」
有無を言わせぬ口調と視線に、カレルはピンと背筋を伸ばす。
「……は、い……♪」
彼女は歓喜に口元を歪ませた。その感情は顔を見ずとも分かってしまった、僕の中にはフォーリオの生み出した魔力が通っているからだ。テレキネスの技法は既に馴染んでいる。
それに何より、この魔力はカレルの為に存在している。ならば、彼女の意を汲むことなどたやすいことだ。
カレルの心情は、行為への期待に満ち満ちていた。
このままいけば、蹂躙されてしまう侵食されてしまう征服されてしまう。あらゆる被虐欲が彼女の意識を塗りつぶしている。それは僕の魔力のせいでもあるが、フォーリオが彼女の為に生み出した魔力は一番に彼女の願望を捉えているのだから、いわゆるマッチポンプってやつだろう。
フォーリオはカレルに、女として男に支配される喜びを見いだしたのだ。
「ん……ふ……
#9825;」
熱っぽい息を吐き、カレルは四つん這いの格好で近づいてくる。まるで捕食者のように。
だが実際の立場はその逆だ。甘い果実に誘われて罠に飛び込まんとしているのはカレルの方、僕はさながら食虫植物だ。
おもむろに手を伸ばし、カレルの頬に重ねる。そのまま首もとにかけて撫でさする動きを、カレルはぶるりと震えて
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