風呂場の後始末はやはりというか、想像した通りの重労働だった。吐き出したものは固まる前に洗い流すしかないのだが、精液ってのは水分と交じり合うとゼリー状になるわけで、これがまたしつこい。ぬめるような感触が延々と続き、いくらこすっても落ちない落ちない。手についたのを落とすのにも苦労する。素手なのも相まって結構な時間を食った。こいつに掃除用具を使うのはさすがに躊躇われるし。
(うっかりお湯使うと白く固まって余計に落ちなくなるんだよな……)
自宅でやらかした経験がここで生きるとは。人間、何が役立つか分からないものである。
(ってか出しすぎだろ。魔力?のせいなんかな)
こびりついたヤツを爪でこそぎ落としながら、少し落ち着いた頭で考える。
魔力に魔物。眉唾な話だけど、牛乳でもぶちまけたんかってくらいの射精量は普通にあり得ないし、因果関係は置いといて常識を超えた何かに巻き込まれていることは間違いないだろう。俺の中に魔力がたまって、そいつを吐き出すには彼女の協力がなければいけない、という流れだったはずだ。
(ゲームのMPみたいなもんとは違うんかな。や、呼称が重要な訳じゃないけど)
関係はあるのかもしれないが、知るすべはない。いろいろ知ってそうな彼女からは、親切する気は一切ないという宣言をいただいたばかりだ。
(……思い出したら、なんか)
噛み千切ってやる、と耳元で囁かれた言葉。やり兼ねない凄味をヒシヒシと感じた。だがその苛烈な口調とは裏腹に俺の反応は。
(ムラムラしてきた……!)
めちゃくちゃ興奮していた。ハスキー入った低音ボイスに暴れる男の身体を押さえ付ける膂力、柔肌の内側に潜んだ強靭な筋肉の感触は、女体の逞しさをこれ以上なく俺に伝えてきた。細すぎず、ごつすぎず、しなやかさと美しさを両立した奇跡のバランス。
――それを大きく崩す、巨大な乳と尻。あれは反則の域だ。
組み敷きたいし、組み敷かれたい。こんなチャンス逃してたまるか。
(お近づきになりてえ。絶対)
まあ、手コキされた関係の先とか想像もつかないけど。行為の先ってんじゃなく、次の段階への進み方が。普通の関係ならデートに誘うとかできるんだけどね。
(そういうお店みたいな態度だしなぁ。知らんけど)
風俗なんて空想の世界でしか分からん。分からんが、ああいうのは互いに確かな利益があるから商売として成り立っているのだ。
では俺と彼女の場合はどうか。俺にとっては言わずもがな、彼女にとっての利益が分からない。理由は言ってた気がするけど。
(失敗の挽回か。俺のこの状況が彼女にとってそうなら、俺ができるのは……協力するくらいか)
邪魔をせず、従順にチンコを差し出す。想像して頭が痛くなった。なんという情けなさ。せめて彼女に気持ちよくなってもらうとかないのか。
(それこそ童貞が何言ってんだって感じだな)
とにもかくにも。
つらつらと考えを巡らせているうちに、後始末は終わった。ひと通りを撫でまわし、ぬめった感触がないことを確認する。
手をしっかりと洗い、引き戸をくぐって脱衣所に出た。洗面台と脱衣カゴがあり、カゴの中には無造作にジーンズが入れられている。
そういえば、俺はパンツ一丁だった。掃除ついでに股間は洗ったが、履いてたパンツを履きなおすという違和感は凄まじい。
(服とか借りられないかな……いや、いったん家に戻るとか)
その手の話をしていいものかと思いつつ脱衣所を出る。
そこは脱出の時に通った廊下だ。俺が寝ていた部屋への扉は右側で、左側には玄関口がある。正面の扉は開け放たれていた。
その先には、冷蔵庫を開け放ち、ぐいっと牛乳パックを煽った彼女の背が見えた。健康的に焼けた肌と、隆起した肩甲骨が露になった……下着姿で。
(うぉおおおおおおおお!!)
下着は黒のスポーツもの。めちゃくちゃに似合っているし、色気を損なうであろう無機質なデザインなど関係ないといわんばかりに、背中越しでも主張する爆乳と布地の食い込んだ臀部が強烈なセックスアピールをかましていた。
ぐぐっとまたもや股間がせり上がる。こんな精力旺盛だった覚えはない、これも魔力とやらのせいだろうか。っていうか、さっきのジーンズは彼女のやつか。部屋着は下着派なんです? ありがとうございます!
脳内ガッツポーズで固まる俺をよそに、視線に気づいた彼女が首だけで振り返る。
「掃除は」
淡々とした口調。俺はどもりながら答えた。
「お、終わりました」
「よし。飯にするか」
そう言って冷蔵庫の中に手を突っ込む。これはまさか、手料理展開とかそういう、
「ほら」
放って投げられたのは、ひんやりと冷えたゼリー飲料だった。10秒チャージで有名なアレである。
「……え?」
「足りんか? まだあるぞ、好きにとれ」
ガバっと開け放たれた冷
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録