その10

 それからの俺たちは、などと、エピローグ的に話は終わらない。
 これは人間と魔物が出会ったなどというおとぎ話ではなく、ただのリーマンに性欲過多な彼女が出来たという下世話なマンミーツガールである。めでたしで流せるほど日々の生活は軽くないのだ。

 当然、性器で繋がったまま告白した俺は、なし崩し的に3回戦に挑むことになったし、白熱し過ぎて後背位やら対面座位やら様々な体位を試しながらの4回戦にもつれ込んだし、そうなった頃には他の人格も目を覚ましてしまってて、不満げな紫カオルを押し退け出てきた淫乱ピンク神官女さんは「オオトリとは美味しいところをごめんなさいね」と、手と口と股間という3点バースト限界耐久種付けプレスを強要してきて、そのドギつい喘ぎっぷりとだらしなさすらある柔らかな媚肉があまりにもドストライクで、思わず熱が入った抽送でアヘ顔KOを叩き出した結果、蛇的に嫉妬深いカオルの不況を買い、乳首舐め素股で延々と空撃ちをさせられた後、乳首舐めという雄の匂いを味わいつつマーキングまで行える行為を大変お気に召したご様子のライオン王女に全身という全身を舐められ、じゃあ私の乳首も舐めて欲しいとかつての雄の記憶と雌の喜びが混ざり合ったハイブリッド性癖勇者がえげつない手淫と一緒に乳首を差し出してきたりした。
 猿が如く性欲に溺れたと言えばそれまでだが、実害は洒落にならないもので。
 告白からおよそ8時間後。俺はようやく解放された。
 冷静に時間を数えられるあたり、インキュバスと化した自分の体力が空恐ろしい。

「大遅刻じゃねえか……」

 時計を見て、スマホの履歴を見て、脱力する。ゴンゴンと唸るエアコンの冷気が要らないくらい脳が冷えていた。
 救いなのは、昨日の体調不良(のような様子)を見た上司からの「調子悪いなら仕方ないけど連絡くらい寄越せ」というお叱りのメールが来ていたことである。無断欠勤に違いはないが、心境の差は大きい。あれだけ無茶をしていたのに、コンディションが万全なのは既に人外と化している影響だろうか。
 異様なまでに絶好調だが、汗はかく。カオルはまだ寝ているのでエアコンの設定はいじらず、まずはシャワーを浴びることにした。
 諸々を洗い流した後、職場に電話で詫びを入れ、正式に休みをいただく。普段の態度が功を奏したのか、下手な追及はされなかった。
 ひと息つき、部屋に戻る。部屋はエアコン独特の空気の中に、雄雌の体臭がドギついことになっていた。シャワーで嗅覚をリセットしたせいで余計に際立って思える。窓を開けるか迷うが、その前に彼女の様子を伺う。
 カオルは、汗やら白いアレやらに塗れたベッドの上で寝入っていた。原理は分からないが、いつの間にか魔物のパーツは無くなり、人型に戻っている。おっぱいが鏡餅がごとく重なっている光景は大変に眼福ではあるが、冷静に見返してみれば、マットもシーツもえらいことになっている。買い替えも視野に入るレベル。
 後悔はないが、やるべきことが増えたと凹んでいると、カオルの目がパチリと開いた。のそのそとシーツを掻き抱きながら身体を起こす。
 しゅるしゅると髪色が変わっていった。ピンクである。どういう理屈だろうか。

「おはようございます、キタガミさん♪」
「お、おはよう」

 何とか挨拶を返して、ぐっと唾を呑み込んだ。このカオルはなんだか妙に、油断ならない雰囲気をまとっているのである。
 初めて出会ったのは4日前、酔って帰ったその時で、詳細は覚えていない。たぶん何もなかったのだと思う。ただ、昨晩の絡みっぷりは、一人だけ異彩を放っていた。誘われるがまま覆いかぶさったのは俺の方だが、内なる凶暴性を暴かれたというか、うまく煽られたというか。正直あそこまでやる気はなかった。結局、再度の気絶を味わったのは彼女だけだ。

「え、っと。ごめん。昨日っていうか今日っていうか」
「はい? なんのことでしょう?」

 思わず謝罪が飛び出たが、彼女は不思議そうに首を傾げた。あれ、そういう感じ?

「ああ、いや、なんでも」

 口に出して言わないと分かりません、なんて言われたら藪蛇である。羞恥心に耐えられない。なので俺は言葉を濁すことにした。誠意よりも気恥ずかしさが勝るのだ。許して。

「シャワー使えるよ。ゆっくり休んで」
「まあ♪ ありがとうございます」

 誤魔化すように告げる。彼女はシーツに転がった布切れ――ピンクのベビードールだ――を掴むと、俺の脇を抜けて洗面所に向かった。と、

「激しいのは大歓迎ですよ
#9829;」
「――っ!?」

 すれ違い様に、パンイチの俺の股間を手が撫でていく。いたずらっぽく舌を出す彼女に、俺は硬直した。ついでに息子も硬直した。
 洗面所へ消える彼女の姿を追いながら、まあ気にしてないなら良かったと安堵した矢先。
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