――誕生日おめでとう!今日から酒解禁だな!ほーら、呑め呑めー。
初めての酒は、甘く、喉を通った後に、熱が残る。
――はっはっは!幹彦は酒弱いんだなー。一杯でもうぐらぐらしてるじゃないか。
本当だ、先輩の体が、左右に揺れて……。
――ほーら、こっちに来い。
ゆっくりと、先輩へ体を預ける。暖かい。柔らかい……。
――私の目を見るんだ。そう、そのまま……。
唇に、柔らかい感触。口内をなで回される。
――キス、初めてか?……私もだ。私も、キス、初めて。
ファーストキス。先輩のファーストキスを、俺が……。嬉しい。
――ほら、私のここ、お前のものとキスしてる。んっ、入れるぞ……。
ああ……温かい、気持ちいい……。
――腰を前後するからな……。んっ、んんっ、すごい、初めてのセックス、気持ちいい!
先輩が、気持ちよくなってる。俺ので、気持ちよくなってる。
――好き、好き。ずっとずっと、お前のことが好きだった。ずっと、こうやって、セックスしたいと思ってた。
俺もです。俺も、初めて会った時から、先輩のことが好きでした。
――はぁぁ……嬉しい。私のおまんこ、気持ちいいか?ちゃんと、射精、できるか?
はい、先輩の中、気持ちいいです。出そうです。
――そのままだ、中に、出そうな。一緒に、イこうな……。
あぁ……先輩の中、締まる。気持ちいい……出る……。
目を覚ましてしばらくは、自分が昨夜、人生における大いなる一線を越えたことを、思い出せないでした。
視界が最初にとらえるのは、いつもと変わらない、白い天井。聞こえるのは、うるさいゴミ収集車の音。
しかし、人間の記憶に最も深く刻まれるのは、嗅覚だ。呼吸をして、匂いを嗅いだ瞬間に思い出す。
――あれは、夢じゃない、現実だったのか。
昨日、俺は、サークルの先輩……仲根美菜とセックスをした。互いに初めてで、でも、そうとは思えないほど、乱れて。
大きく息を吸い込むと、昨日嫌と言うほど嗅いだ、先輩の匂いが鼻腔と脳髄を満たす。煙草と、その奥にある牝の香り。空になった隣の空間に残る、情事の残り香だ。
「うっ……」
股間から上る痛みで、思わず声を漏らす。先輩のことを思い出しただけで、ただでさえ朝の勃起をしている陰茎にさらに血液が溜まり、睾丸がもう精液が空だと、悲鳴を上げたからだ。
浮ついた心のまま、体を起こす。壁にかかった時計が、九時ちょうどを刻んでいる。非日常の経験をした後でも、体に染みついた習慣は抜けないらしい。いつも通りの時間だ。
朝食を摂るため、台所に向かう。今日は二限と三限に講義があるから、10時までに大学に行かないといけない。
あまり時間がないため、手軽に冷凍食品で済まそうとし、冷蔵庫の扉を見る。そこには、昨日までなかったメモが貼り付けられていた。
『幹彦へ。すまん!今日は一限あるから、先に帰る! P.S.今日もサボらず部室に来るんだぞ!先 輩 命 令 だ !』
昨夜のしおらしさを感じない、いつも通りの先輩の文面だった。
◆ ◆ ◆
瞬く間に三限の講義が終わり、食堂で、遅い昼食を摂る。胃袋が肉と脂を求めていたので、ハンバーグ定食を注文。昼休みとは打って変わり、静寂が聞こえそうなほど空席の目立つ中で、一番窓際の席に座った。
――試験直前だというのに、講義にまったく集中できなかった。
目は前を向いている。耳は教授の声に傾いている。それなのに、思い出すのは……。先輩のハスキーな声。乳房の重さ。なめらかな肌。煙草の匂い。ファーストキスの味。鼓膜を震わせる息遣い。膣の締め付け。絶頂のうめき。愛の言葉。
そして、この世にあってはならない、先輩の頭から生える角。腰から伸びる翼と尻尾。
記憶のもやがようやく薄れたとき、視界に広がるのは、窓の外の景色だった。
一月末。寒空の中、日差しの暖かさだけが、春の訪れを予感させる。
箸で細長くハンバーグを刻み、ご飯と交互に口に運ぶ。最後にコンソメスープをおなかに流し込み、一息つく。
視線を前方の窓に向ける。視線の先には、風で葉のない枝が揺れる樹と、レンガ屋根のついた喫煙所があった。風晒しのあそこを見るたびに、前世でどれほどの悪行をすれば、あんな仕打ちにされてしまうのだろうと、煙草を吸わない身でありながら、喫煙者に同情してしまう。
そこに向かう人影が見えた。
心臓が高鳴るのを感じる。昨夜の記憶のもやがまた見える。先輩だ。
ファーのついた黒ブーツ。ぴったりと貼りつき、美脚を映えさせる黒のストッキング。ツカツカという音が聞こえそうな、大きな歩幅。デニムのショートパンツは歩くたびに左右に揺れ、締まったヒップを強調する。黒革のコートのジッパーが胸元まで上がり、白いノースリーブに隠された乳房を強調する。ボブカットの黒髪の間に、いつもの
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