レスカティエの、二つの一日。
デルエラによる陥落前日と、陥落二日後の話。
◆ 前 5:30
レスカティエ王立騎士団の朝は、太陽よりも早い。
地平線の下に沈んでいる時間から、団員の勤めは始まる。
「点呼!」
廊下の最奥の部屋から、小隊長が顔を出す頃には、すでに全員が自室の前に整列していた。
「いち!」
「に!」
「さん!」
団員の中に、いまだ少年の面影を残す者がいた。名はグレゴリオ、歳は十五。
「し!」
自分の番に、グレゴリオは団員の中で一際大きな声を放つ。声変わり直後の、やや高い声が、騎士団寮の天井の高い廊下に響いた。
◆ 後 5:30
窓の外では、鳥が鳴いている。
「うーん……」
グレゴリオは、もぞもぞとベッドの中でうごめく。
彼はすっぽりと布団に覆われており、外からは彼の様子を見ることはできない。
「あっ、んっ、んんぅ……」
動物のように膨らんだり縮んだりを繰り返すその中からは、彼のものではない、少女の艶かしい声が漏れ出ていた。
◆ 前 6:00
騎士団寮の食堂は、大勢の人間がいるにもかからわず、静かであった。
節制と規律を重んじる騎士団において、必要以上に騒ぐのは厳禁であった。自分たちは、常に主神様に見られていることを忘れては行けない。それが彼らの心に深く刻み込まれていた。
「ごちそうさまでした」
パンとスープ、そしてサラダ。質素で新鮮な朝食を終え、グレゴリオは小さく、食材に感謝の言葉を述べた。
器を厨房へ持っていく。食堂の従業員にそれを渡すと、彼は静かに修練場へと向かった。
◆ 後 6:00
朝の日差しが、分厚いカーテンの隙間から部屋へ漏れ入る。
しかし、布団に全身を覆われた彼の目には、それは届かない。
「んっ、うぅっ……!」
彼が小さく呻くと、布団が一度、二度、大きく震えた。
「はにゃぁ……っ」
とろけきった少女の声が、布団から聞こえる。
震えた拍子に、布団が一部めくれた。
そこから現れたのは、瞳が潤み、口をだらしなく広げ、声と同様にとろけきった表情を浮かべる、青肌の魔物娘の顔であった。
◆ 前 8:00
「セイッ!ハッ!」
騎士団寮の中庭に作られた修練場。団員のハツラツとした声が、街にまで響いていた。どんなに寝覚めが悪い人間であっても、皆この声で起きる。
団員は修練場に目いっぱいに広がり、等間隔に並んで槍を振るう。
「動きが遅いぞ!訓練だとは思うな!目の前に敵がいると思え!」
眼帯をした女教官が、団員に檄を飛ばす。
「セイィ!ハイィ!」
そのおかげか、彼らの掛け声も、鬼気迫ったものになっていった。
グレゴリオもその中の一人で、槍を突き出し、大きく振り回す。飛び散った汗が、朝の日差しにきらめいた。
◆ 後 8:00
グレゴリオは、その日三回目の射精をした。
抱き枕のように後ろから抱きかかえている少女の蜜壷の中に、全て放たれる。そのたびに、少女が快楽に満ちた声を漏らす。
「あっ……あぁ……」
彼のまぶたが開いた。吐息に覚醒の意思がこもり、少女のうなじを熱くする。
「ふゃぁ……ぐれごりおおきたぁ……」
とろとろの声で、少女がつぶやく。
彼女は青肌だけではなく、他にも人外の特徴を持っていた。
尖った耳。赤い瞳の周りに、黒い淵の目。頭からは角が一対生えている。腰からは翼と尻尾が生え、歓喜に揺れる。
彼女の名はベリア。魔界からレスカティエに攻め入った尖兵、デビルである。
「あっ、お、おはよう……」
小さく、グレゴリオが言う。しかし、言葉に反して、彼はまだ起きようとはしなかった。
腕の中にいる、世界一気持ちいい枕が手放せず、強く抱きしめてしまった。
「んんっ、そうだよぉ……まだ起きなくて、いいからね……」
グレゴリオの鼻先にうなじをくすぐられながら、ベリアは安心しきった声を上げた。
◆ 前 10:00
座学。
槍の修練が終わった後は、講堂で講師の教育を受ける。
内容は主に神学と兵法で、ありがたい神の御言葉と、適切な戦闘のやり方を学ぶ。
運動の直後であり、ありきたりでつまらない内容であるが、眠る者は一人もいない。
居眠りが講師に見つかったら昼食抜きという罰が与えられるせいもあるが、団員は皆、授業の内容が自分に必要なものであると信じきっているのだ。
当然、グレゴリオもその一人であり、将来、この授業の内容が、絶対に魔物討伐に役に立つと思って疑わなかった。
◆ 後 10:00
グレゴリオとベリアは上半身を起こし、ベッドの上に座っていた。
「はい、あーん」
にやけた笑みを浮かべる彼女の手には、一口大に切られた虜の果実がある。それを彼の口元に寄せると、グレゴリオは寝ぼけた眼を瞬かせながら、ゆっくりとかぶりつ
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