「これで、あなたは人間の倫理から解き放たれた」
お姉様は、私にそう仰った。サキュバスは、魔物娘は、人間によって作られたルールに縛られない存在。
「だから、あなたの大好きな人のことを、堂々と『大好き』って言える」
そう言って、お姉様は自分の目の前にいる男を抱きしめた。私と同じクラスの男子だった。
「九郎、大好きだよ。愛してる」
お姉様は、両腕で実の弟をガラス細工を扱うように包み、腰を前後に動かした。
「うっ、お姉ちゃん……っ!」
お姉様の下にいる彼は、そう一言漏らすと、全身を一度、二度と大きく震わせた。サキュバスになった今ならば分かる。彼は今、射精しているのだ。血を分けた姉に、膣内射精をしているのだ。
「私も、お兄ちゃんと……」
世界で一番大好きな存在を、脳裏に浮かべた。
◆ ◆ ◆
それから一週間。
「ああー、もうー!」
放課後、教室に橙の光が差し込む。
ここは一年二組と三組の間にある、通称『2.5組』。存在しないはずの教室。人間は知覚すらできない教室。
私のような人間をやめた魔物娘たち専用の教室だ。
私は机に突っ伏し、うめきながら足をじたばたさせた。
「どうしたの、杏里ちゃん」
心配そうに声をかけてきたのは、新島舞だ。私と同じクラスで、私より一日後にサキュバスになった子だ。
「どうしたもこうしたもないよー!何で一週間も経ったのに、私はまだ処女なのよー!」
そう、せっかくお兄ちゃんと結ばれるために人間をやめたのに、私はいまだにお兄ちゃんとセックスできていないのだ。
理由がさっぱり分からない。お姉様は、サキュバスになっただけで、好きな人を誘惑する魔力が自然と発せられると言っていたのに。普通だったら、お兄ちゃんの方から襲ってきてもいいはずなのに。
「それに比べて、舞ちゃんはいいよなー。サキュバスになってすぐにお兄ちゃんに中出ししてもらえるなんて」
嫉妬のこもった目線で、舞を上目に見る。
先ほどから、セックスや中出しといった、中学生女子が声に出してはいけない単語を口にしているが、全く問題はない。この教室には、他にも何人かの女子生徒がいるが、全員魔物娘なのだ。出てくる会話はエッチなものばかり。
「ねーねー、どうして同じお姉様を持つ同士なのに、こんなに差があるんだろうねー。ねー……」
舞も、私と同じお姉様によって魔物化し、同じく実兄のことが世界で一番大好き。なのに、彼女は毎日子宮がたぷたぷ音が鳴るまで膣内射精してもらえて、私はいまだ処女。納得がいかなかった。
「え、そんな……私、何も、特別なこと……」
そう言って、彼女は赤面しつつ、頭を垂れた。つやつやのおかっぱが、彼女の目元を隠す。彼女は、女の私から見ても綺麗だと思う。日本人形のような、まさに大和撫子といった風貌。男だったら、守ってあげたいし、誘惑されたら襲いたくなるのだろう。
対して私は、髪はショートで色素が生まれつきやや薄い。キレのある目だと言われる。男女と言われたことも何度かある。全くの正反対だ。
――だから、お兄ちゃんは私のことを襲ってくれないのかな。
「何か、コツってないの?」
「えー、杏里ちゃんに教えられることなんて、何も……」
「でもでも」
食い下がる。
「舞ちゃんは、サキュバスになってすぐにお兄ちゃんとエッチできたんでしょ?だから、私とは違う何か特別なことをしているんじゃないかって……」
そう言うと、彼女はうつむいたまましばらく考え込み、私の方を見た。
「あの、その……私とお兄ちゃん、ずっとエッチ、してたから……」
もじもじと彼女が身悶えする。
「サキュバスになる前から……私が小学生のときから、毎日お兄ちゃんとエッチしてたから、何も、特別なことなんて……」
顔どころか、全身真っ赤にさせ、彼女はうつむいてしまった。
一方の私は、彼女の告白に口を半開きにしたまま、呆然とするしかなかった。
別のグループの誰かが、喉をごくりとならしつつ言った、『羨ましい』というつぶやきが、いつまでも私の頭の中で響き続けた。
◆ ◆ ◆
――今日から本気出す!
舞の告白の後、私を憐れんでくれた教室内の仲間から、様々なアドバイスを受けた。お兄ちゃんを旦那様にするべく、それらを実行に移すことにした。
今まではサキュバスのフェロモン頼りで、自発的に行動をしなかったのだ。だが、今日からは違う。
――やっぱり、スキンシップは大事だと思うよ。魔物娘の肌って人間と触り心地が段違いで気持ちいいから、きっとお兄さんも喜んでくれるよ。
二年生のホルスタウロス、雨宮先輩のアドバイス。抱き付いて上目づかいで見つめると、すぐに彼氏は理性を失ってしまうらしい。
「お兄ちゃんっ!」
家に帰ると、居間のソファにお兄ちゃんが座っていた。早速アドバイスを実践する
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