いつの時代も、新人に与えられる仕事は、退屈で単純なものばかりである。
教団の新人騎士であるヘテロも、そんな単純で退屈な仕事を任され、一人ため息をついていた。彼は教団の熱心な信者である両親の間に生まれ、物心がつく前から教団の思想と濃厚に接していた。当然、魔物は悪であると信じきっており、将来は教団の騎士として魔物を討伐して活躍したいと考えていた。
そしてその夢は、ほんの数ヶ月前に叶えられることとなった。剣の腕と信仰心を認められ、見事教団と魔界国家の境界、最も戦闘が激しい最前線への配属が決定したのである。しかし、そんな彼に待っていたのは、捕虜の監視という彼の理想とはかけ離れた仕事だった。
――こいつが暴れてくれれば、少しは退屈がまぎれるのだが。
彼は牢獄の一番手前の檻の前に座っていた。両腕で囲えるほどの小さな丸テーブルと、簡素な木の椅子。テーブルの上には、数冊の本と、パンが乗った皿、そしてコーヒーの注がれた金属製のカップが置かれている。本は長距離の行軍により、砂埃にまみれ薄汚れている。
ため息をつき、彼は視線を前方に向けた。その先、小さな折の中には、現在、この前線基地で唯一の捕虜が入っていた。頭から伸びる角。腰からはぬめりのある光を放つ、尻尾と翼。ヘテロはその姿を、小さい頃から何度も教わってきた。
――人間を堕落させる淫魔、サキュバス。
彼女は今、自慢のボンテージを剥ぎ取られ、ぼろきれのような麻の囚人服を着させられている。元は白であった服は、長年使われ続けたせいで茶色く汚れている。所々に穴も空いている。彼女は檻の中にあるベッドに腰掛け、静かにじっとしていた。
成人になったばかりで若さを持て余している彼にとっては、それはひどく退屈で苛立たしかった。どうにかしてこの何とも言えない鬱憤を発散したい。しかし、何の非もない彼女をいきなり責めるということは、自分の清廉潔白な精神では容認できないことだ。そう考えた末に、彼は彼女に暴れて欲しいと感じたのだ。
しかし、彼の理想とは反対に、魔物は身じろぎ一つせずおとなしくしていた。
湿地帯に立てられたこの基地は、雲ひとつなく満月が輝く夜であっても、高い湿度によって体を汗で濡らす。ヘテロの胸に浮いた汗の雫が、ズボンの端に吸収された頃、ついに沈黙に耐え切れなくなった彼が声を上げた。
「おい」
苛立ちを隠すことなくにじませた、低い声。呼ばれた魔物は、ゆっくりと顔を上げた。ベッドは彼に側面を見せた状態で置かれており、そこに座る彼女の顔は、彼のものと正面で相対することとなった。
ぎしりと音がする。彼女の手首に巻かれた縄が立てたものだ。同時に、彼女の美しい顔がわずかに歪められる。頑丈さだけが取り柄の無骨な縄は目が粗く、所々ささくれ立っている。それが遠慮なく彼女の皮膚に食い込むのだ。先端は二人の中間、檻に結び付けられている。
「逃げようとしても無駄だぞ」
意地悪く口角を上げ、嘲るように彼が言う。
「お前ら魔物は、魔力がなければ、ちょっと力が強いだけの女だ」
皿の上のパンを手に取り、かじりつく。本国から遠く離れた前線基地、その上戦闘とは直接関係ない場所に送られてくるものであるため、等級のかなり低いパンだ。硬く、味が薄く、口内の水分を容赦なく吸い取る。ヘテロは小さく舌打ちをすると、カップを持ち上げ中身を啜った。
魔物を拘束する縄に繋がれた鉄柵には、白い塗料で文様が書かれていた。これはアンテナのような役割をしており、魔力を検知すると、縄を伝って相手に耐え難い痛みを与える。
教団の長年の研究により、魔物が特別な力を行使するためには、どうしても魔力を周囲に放射しなければならないことが分かっていた。たとえ周囲に何も影響を与えない場合――例えば腕力を強める魔法で、自らを拘束している縄を引きちぎる場合――でも、微弱ながら魔力を撒き散らしてしまう。文様は縄と繋がった一本だけでなく、檻を囲う全ての鉄柵に書かれていた。
「俺は、お前ら魔物が大嫌いだ」
もう一度パンに口をつけ、ヘテロがつぶやく。
「主神様のご意思から外れた畜生共。罪のない人間を堕落させる、魔の手先……」
コーヒーカップをあおり、底に残った一滴まで飲み干す。苦々しい表情は、コーヒーのせいだけではない。
「今、お前を見ているだけで、目が腐り落ちてしまいそうだ。視界に収めたくもない」
魔物は、表情を変えることなく彼の顔を見つめる。まぶたが少し降り、表情に力はなかったが、瞳の光は消えることなく爛々としていた。それがまた、彼を苛立たせる。
「だが、お前を監視するのが俺の仕事だ。ここまで厳重に拘束されて、万に一つも逃げる可能性はないと思うが」
息を吸う。コーヒーカップをつかみ、唇をつけたところで、すでに中身を飲み干していることを思い出し、小さくため
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