煩きつね

 西沢幸雄は、妹の部屋の前に立っていた。
 彼の妹、西沢由梨香は、一週間前までは普通の女子高生であった。明るい性格で、よくしゃべる。友達も多く、毎日帰りが少し遅い。そんな彼女であったが、まるで中身が入れ替わってしまったかのように、部屋の外に出なくなってしまった。
 ひきこもりとは違い、ちゃんと学校に行き、食事も居間まで下りてとっている。しかし、授業が終わったらまっすぐ家に帰ってくる、家族とは一切会話をしないと、性格が丸っきり正反対になってしまった。
 両親がそれとなく聞いてみても、生返事しか返さず、すぐに自室に引っ込んでしまう。普段から奔放な性格に心配をしていた彼らであったが、こうも極端に生活習慣が変わってしまうと、それはそれで不安なのである。
 親に話せないことでも、兄にならということで、半ば説得される形で、幸雄は由梨香の様子を覗くことになった。
「おい、入るぞ」
 ノックをしたが、返事はない。仕方がないのでもう一度ノックをしたが、反応は同じであった。
 ため息をつき、彼はノブを回す。予想に反して、扉はすんなりと開いた。
――開いている?
 そっと扉を押すと、音を立てずにそれは開いていった。部屋の中は闇。電気が付いておらず、夜の闇が部屋の中に侵食しているかのようであった。
「由梨香、寝てるのか?」
 足を踏み入れた彼が最初に感じたのは、匂いであった。汗の甘酸っぱい匂いと、それとは違うもっと甘ったるい匂い、それからかすかに獣の香りも混じっていた。
――何だ、この濃い匂いは……
 そして次に感じたのは、湿った音。ぬちぬちぐちゅぐちゅと、小さいながらも耳に残る音。そして、女の呼吸音。
「起きてる、のか?」
 ただならぬ不安を感じた彼は、それを払拭しようと電灯のスイッチに手を伸ばした。タッチパネル式になっているため、指をボタンに触れるだけで電気が灯る。
「えぁっ、あうぅ?」
 幸雄が思っていた通り、彼女は起きていた。セーラー服を着替えず、ベッドの上で膝立ちになっていた。彼女の手は下半身に伸び、スカートをまくり上げ、パンティの中に……
「なっ、何をやってるんだお前……」
 そう漏らすのが精一杯であった。起きていることは想像がついたが、こんなことをしているとは完全に想定外であった。彼の目は驚きで見開かれている。
「あんっ、あっ、はうぅっ……」
 彼女は兄の呼びかけに答えず、指を動かし続ける。半目の状態で瞳は潤み、口はわずかに開いて唾液が端から垂れ落ちている。足の付け根からは、粘度の高い液体が、指の動きに合わせて、漏れたり止まったりを繰り返している。
「おい聞いているのか?」
「うぁう……あっ、あはぁっ……」
 彼女の視線は兄の方を向くが、返事なのか喘ぎなのか分からない声を漏らすのみ。
「ちゃんと返事を……!」
 強く妹の彼女をつかんだ幸雄は、言葉を失った。彼の手に、強い震えが何度も伝わる。
「ふっうぅっ……!うぅぅ……!」
 彼の顔を覗いたまま、由梨香はさらに表情をとろけさせた。小さく舌を出し、その先っぽから唾液が糸を引いてこぼれる。頬と言わず全身が紅潮し、腰を中心に一度、二度、三度とびくびくと全身が震える。
「くうぅっ、あっ……ほぅ……」
 彼女の震えが止まり、一つため息をついた。目に理性らしきものが戻り、ようやく自分の状況を理解したようだ。
「兄貴ぃ?」
 小さく、目の前の相手を呼ぶ。しかし、呼ばれた本人はそれどころではなかった。
――あの震え、まさか……絶頂、したのか?俺に肩をつかまれて……
 ごくりと彼は唾液を飲み込んだ。脳裏には、先ほどまでのとろけきった女の顔が浮かぶ。
 彼の表情を見て、彼女はにたりと笑みを浮かべた。
「ねぇ、兄貴ぃ」
 甘ったるい息を吐きながら、甘ったるい声を出す。
「えっ、あっ……な、なんだ……?」
 声をかけられて、幸雄はようやく我に返った。引きつった笑みを浮かべる。
「あのね、私、まだイき足りないの……」
「は?」
 彼は耳を疑った。予想外のことが起こりすぎて、彼の脳が整理をしている内に、妹が言葉を畳み掛けた。
「だからね、兄貴ぃ、オカズになってよ」
 力のこもっていない両腕で、彼女は幸雄のジーパンのチャックに手をかけた。
「やめろっ……!」
 彼はいまだ思考の渦にはまったままであった。よって、彼女の手を振り払ったのはほとんど反射反応によるものである。乾いた音がして、彼の股間に伸びる手が払われた。
「何やってるんだよお前は。自分がしていることが分かっているのか?」
 何とかそれだけを口にすることができた。
「うん、分かってるよ?」
 にぃと目が細くなり、妹が答える。淫らにとろけきった笑顔が、幸雄の心拍数を高くする。だが、彼は彼女の異常な空気に流されまいと、首を小さく左右に振って何とか逃れようとした。

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