「すいませーん、たすけてくださーい」
とても助けを求めているとは思えない、のんきな声が聞こえてきた。
ロックは首を傾げる。彼が今いる場所は、彼の自宅の裏にある山の中である。彼は人里離れたこの場所で自給自足で生活しているため、この山には彼以外に入ってくる人がいないはずなのだが。
「こっちですー。あなたの後ろですよー」
ロックがきょろきょろと見回していると、更に声が聞こえた。どうやら女性のようである。
言われた通りに彼が振り返る。木が生い茂った更に奥に、崖がある。
その崖から、顔が生えていた。
「なるほど、で、罠にかかってサキュバス化した上に、瓦礫に埋もれて動けないと」
ロックは、状況の割りにのんきな彼女、シーンの言葉に耳を傾けた。
話を聞きながら、彼は彼女の整った顔に見惚れる。
きれいに真っ直ぐな鼻筋。大きな瞳はキラキラと輝き、宝石のよう。見事な曲線美を誇る肌。木漏れ日に照らされ、艶かしく光る角。頬を赤く染め、時折漏れる熱い吐息が、ロックを性的に興奮させた。
この裏山を庭のようにしていた彼も知らなかったのだが、盗賊ギルドの間では、ここには宝が眠っているという噂で持ちきりだったらしい。
ギルドに所属していたシーンは、その噂を聞きつけると、早速この山に向かった。
そして事実、この山には財宝が隠されていた。
草木で巧妙に隠蔽された遺跡を発見し、侵入者から守るためのトラップをいくつも越え、ついに両手に抱えるほどの黄金の装飾品を発見したのだ。
しかし、最後の最後でミスを犯した。装飾品を台座からはずした瞬間、桃色の霧に包まれ、サキュバス化してしまったのだ。溢れんばかりの性欲に押しつぶされそうになりながら、何とか出口までたどり着いた彼女だったが、寸前で最終トラップ、崩れ落ちる瓦礫の下に埋もれてしまったのである。
うつ伏せのまま、首だけをロックの方へ向けて彼女は言う。
「はい、ですから、ここから出してくれませんかねー」
抜け出そうともがいているが、彼女からは焦っている様子が感じられない。
「シーンさん、あんまりピンチって感じがしませんね」
「いえ……もがくたびにこすれる瓦礫が、何だか気持ちよくて……」
顔を赤らめてそう言うと、またもじもじとし始めた。
――さて、どうしたものか……
ロックは思案した。見た所、生きているのが不思議なくらい、彼女の体はがっちりと瓦礫の隙間に挟まれている。肩や腕が露出しているならば、そこを掴んで引っ張れば、もしかしたら出す事が出来るかもしれないのだが。生憎、首しか出ていない。頭を掴んで引っ張ったら、首がさぞかし痛いだろう。
そして、彼女はサキュバス化している。よくは知らないが、魔物化した直後は、全身が性感帯になっている上に、頭の中がエッチな事でいっぱいで、まともに動けないと彼は聞いた事がある。
――魔物……魔力を操る生物……魔力?
その時、彼の頭にある策が浮かんだ。
「シーンさん。魔物化したって事は、強力な魔法が使えるんじゃないですか?」
彼は思い出したのだ。魔物はその名の通り、強大な魔力を持っており、それを用いて強力な魔法を繰り出すことが出来る。本気になれば、この程度の瓦礫など、溶かすなり粉砕するなり消失させるなり難なくこなせるはずなのだ。
「ああ、なるほどー。ロックさん頭いいですねー。じゃあ、ちょっと待ってくださいね」
その後しばらく、彼女の「んっ」やら「ふんっ!」やらの気合を入れる声が続いた。
頬をぷくっと膨らませ、顔を赤く染めてぷるぷると震えている。顔面に力を入れているのだろう。
しばらく顔を膨らませていると、瓦礫が少しずつ、砂になって外に漏れ出してきた。
「お、おお!すごいですよ!ちょっとずつ瓦礫が粉砕されてますよ!」
ロックは喜び、シーンを励ました。
だが、その後すぐに「ぷはっ」と言って彼女は息を吐き、ぐったりとしてしまった。
「ああ、惜しい!もうちょっとですから、頑張ってください!」
「これ以上は無理っぽいですー。お腹が空いて……」
そう言って彼女はがっくりとうな垂れた。
だがしばらくすると、何かに気付いたかのように顔を上げ、すんすんと匂いを嗅ぎ始めた。
「何かいい匂いがしますね。美味しそうな匂い……」
なおすんすんと匂いを嗅ぎ続け、彼女は匂いの元をたどろうとする。
「ロックさん……ちょっと近づいてもらえますか?」
上目遣いで彼を見て、彼女は言う。
彼は素直に彼女の言う通りにした。
「やっぱり……ロックさんからいい匂いがします……もっと、もっと近づいてください」
更に一歩、彼は歩を進める。
「もっと……」
また一歩。
「もっと……」
もう一歩。そして、後一歩で彼の体が彼女の顔に触れる所まで、ロックは近づいた。
「あぁ……美味しそうな、濃い匂い……ロックさん、もう一歩、もう一歩だけこっちに来てください……
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