雨のち弾ける性教徒

 
午前2時、客がほとんど居なくなった居酒屋の奥座敷で突っ伏すシスターが一人。最も酒の席には似合わないと思われる職業だが、ゲートと呼ばれるものが此の世に現れ魔物娘と呼ばれる種族が出現してからというもの、どんな職業が居たとしても誰も不思議とは思わなかった。突っ伏してるこの女性も先程の例に洩れずダークプリーストと呼ばれる魔物娘。

「ぅ〜〜・・・私もうやだぁ・・・どうして誰も信仰してくれないのよぉ」

「・・今日も入信無しだわぁ・・・」

勧誘係として街角に立って愛と堕落の教えを説いていたが、なかなか思惑通りにいかず自棄酒を呑む毎日。

「男の人はほとんど取られちゃって目の前でイチャイチャされるし・・やっと男の人を見つけていざ声を掛けようとしたら上空からブラックハーピーの方がその男性を攫って・・」

「あー・・えーえーそうですよー・・私は鈍間な亀ですよー」

自らの独り言に自ら答えるどうしようもない現状が続く事3時間ほど、店の看板は店内に下げられ店主が残っている客へと閉店のお知らせに回る。

「お客さーん、もう閉店になりますんでー・・お客さーん?」

「うぃ〜・・どうせ私は閉店時間に追い出される役立たずな性職者ですょ〜・・・」

完全にへべれけになっている彼女を他所にせっせと閉店作業に入る店長。無視された事が気に食わなかったのか、それとも他の思惑があったのか定かではないが突如絡み始める酔っ払いシスター。

「ねぇ〜〜店長〜・・・一緒にぃ〜、堕 落 し な い 
#9829;」

「生憎だけど俺の嫁は魔女なんでサバトに属している。ま、諦めてくれ」

「ぶぅ〜〜・・ケチィー・・」

「ほらほら、信仰も大事だろうけどあんたも早く帰って旦那とゆっくり過ごしな」

「旦那が居たらこんな所で自棄酒なんてしてないわよーー!!」

勘定をテーブルに叩きつけドシドシと足音を鳴らして店を後にし、鼻息荒く外に出たものの周囲の環境に涙が溢れそうになる。右を見ても左を見てもカップルか夫婦、もしくはこれから突き合おうという人だかり。その中でポツンと此の世から隔離されたかのような表情で居酒屋の前で立ち尽くす女が一人。その表情から滲み出るのは焦り。酔いは一気に醒め、必死に辺りを見回す。

「な、なんとかして信者・・じゃなくて男の人を見つけなきゃ・・」

必死に辺りを見回すも全ての男性が売約済みもしくはお買い上げありがとうございましたの札が貼られているような気がしてならない。探す事を諦め肩を落とし項垂れながら教会へと重い足取りで歩き出す。

「ほんっっっっとうに・・・私って何してるんでしょう・・」

真っ暗闇の中、小高い丘の上に建てられた誰も居ない教会の扉の前で跪き両手を固く結び堕落神へと祈りを捧げる。

「堕落神様・・どうかお願いします。私にも・・愛をお与えくださいませ」

一心不乱に祈るも神の声が聞こえず、落胆の色を隠せないまま呆然とした顔付きで幽鬼のように立ちあがりふらりふらりと教会内に入っていく。人々を癒すべき存在であるダークプリーストは誰にも癒されず、只一人、孤独に苛まされ木製のベッドの上で自らの体を抱き締め眠りに落ちる。




「・・・もう朝なのですか、早く人々に堕落の教えを説きに行かないと・・」

昨晩の寂しさを紛らせようと自らを奮い立たせるが足が言う事を聞かず教会の外へと一向に出ようとしない。

「しょうがないですね、今日は御祈りを済ませた後は懺悔室で人々の悩みを解消しましょう」

懺悔室に入るも誰一人として教会に訪れる者は無く、時間だけが無慈悲にも過ぎ去ってゆく。溜息を一つ溢し木製の椅子に腰掛け瞼を落とし深い瞑想に落ちる。視界を遮った暗闇の中、研ぎ澄まされた耳に聞こえてくるのは時計の秒針が動く音、自身の息遣い、そして教会の外から僅かに聞こえる小鳥の鳴き声。瞑想にはうってつけの環境が揃っているが彼女自身にとってこの瞑想はただの痩せ我慢であった。魔物娘でありながら未だ独り身なのを体を震わせながらじっと耐えていたのだ。

「神よ・・・私に試練をお与えください」

そう呟くと同時に屋根に取り付けられた鐘の音が教会内に突如鳴り響く。

「もうお昼ですか、…昨日のお酒もまだ体に残ってますし、今は昼食を摂りたい気分ではありませんので少しばかり御昼寝にしましょう」

今日も教会に誰も来ないと諦めつつ、自室のベッドで仰向けになり天井を見つめる日。性欲に溺れる事を是とする彼女にとって独り寝などこの上なく劣悪な環境であり、自身が愛欲に溺れていない事に不安を感じつつ左手を天井へと突き出す。

「何時になったらこの左手に愛の証が刻まれるのでしょう」

近き未来を想像しながら顔が綻ぶも、まだ目の前に現れぬ伴侶に少しばかり気を落とす。結ばれる、ただこの行為のみのはずが高き壁
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