笑顔は幸福を呼ぶ

 
「毎度毎度くだらん企画しか出せないのか」

私の一言で完全に畏縮し口を閉ざしてしまう目の前の青年。周囲からは期待の星と呼ばれていたみたいだが、私にとっては何の値打ちも無い若者、いや期待どころか元より気にもかけていなかった青年を軽く睨む。私の鬼を思わせる顔付きと同時に切り捨てられたかのような言葉を味わってしまった期待の星とやらはただ何も言えず棒のように立ったままだ。

「ふん・・、周囲からの評価が高いと言われてたようだがこの程度だったとはな。これ以上をどう期待すればいいのやら・・」

「・・・・そ、それは・・」

「今の世、魔物娘が進出し確かにこの手も受けるだろう。だが・・

    ただそれだけで通じると思っているのか!!

この程度の企画なんぞ他社も既に企画しておる。我々はそれ以上を創造し提供しなければならない・・。この意味わかっているんだろうな?」

「・・・はぃ・・」

「だが、・・・一通り企画を読ませてもらったが、ここの部分は目の付け所が良かったぞ。これはまだ他社も手を出していないはずだ。これを徹底的に改良し他社の追随を許さないほどの企画を立ち上げるのだ。一週間の期間をやろう、改良してもう一度持ってきなさい、いいな?水島君」

「・・・・ッ!?ハイッ!!」

デスクに戻り必死に改良点を見つけ出し次々と案を書き込んでいく青年を見ていると昔を思い出す。私もあの青年のように若い頃は幾度となく失敗を繰り返し失態を晒し、周囲に恥を晒したもんだ。あの青年はまだ荒削りの石で今は期待は出来ないだろうが近い内に芽を出すだろう。さきほどの企画書も本当はなかなかの出来だったが、あの青年を有頂天にさせない為に叱責した。そう、昔の私もそうだった。自分の思い通りに事が運ぶのをいい事に天狗になっていた。だからあの日・・最大のミスを犯してしまった。人生最大のミスを・・・。まぁ昔の事なんて今はもうどうでもいい。今はあの青年に同じ道を辿らせないようにするだけでいいのだ。さて、次の企画書を・・・。

「・・・・・・・・?」

案の一つに目を通した私は不可解な文字を見つける。これは一体どういう意味だろう。

「ぁー・・香田君ちょっと」

「あー・・・、香田可哀想にな。鬼島部長の呼び出しとはな・・・」

「香田のやつ何やったんだよ・・」

「・・・んんっ!」

ガタガタとデスクを揺らしながら手元の作業に戻る部下を見つめ溜息を漏らす。人の顔色を窺ってる暇があるのなら仕事を優先していろ。

「はい、鬼島部長。御呼びでしょうか」

「ああ、実はな・・この件なのだが・・これは何だ??」

「はい!これは・・・・・・。・・と、言う訳でして一度原点に戻ってみようかとこの案を出してみました」

なるほど。今の世の中だと確かに便利な物が増えた、いや増えたというより使える選択肢の幅が増えたというのが正しいかもしれないな。ふむ、理屈は合ってる。今の物の使える幅が増えるのなら昔の物もそれなりに利用価値が上がるはず。この案は確かに魅力的で誰しもが飛びつこうとするだろう。だが、何かが今一歩足りない気がしてならない。惜しい、実に惜しい感じがする。

「香田君、この企画は見事だ。確かにこれはこれで魅力的な価値があるだろうと思うのだが・・・・」

「・・・何か至らない点がありましたでしょうか・・」

「何かが足らない気がしてならない。その何かが私もわからないがこの案は一応上のほうに通しておこうと思う。いつでも動けるように待機していてくれ」

「ハイ!!」

私は認可の判を押し引き出しに仕舞う。引き出しに入れた案はほぼ確実に上へと通るのがわかってるだけに香田君の顔が一気に笑顔になるのがわかった。

「ありがとうございます!鬼島部長!」

御機嫌なまま自分のデスクに座り次の案件に取り掛かる姿は希望に満ち溢れて良い。あのような顔が出来るとは羨ましい事だ。ほんの僅かだが嫉妬心が湧き上がる。笑顔をどこかに忘れてしまった私にとっては・・。

「クソッ・・あいつ巧く通しやがって・・」

「やべえな・・、このままだと香田に抜かされちまうぞ」

「んんんんっ!!」

一瞬で目線をデスクに戻し作業に戻る部下。全くどうしようもない奴等だ。他者を嫉んだ所で企画が上がるわけでもない。では、昨日提出された企画書のチェックといくか。・・・誤字が多いな。まぁ内容量からしてこの程度はしょうがないとしてもだ、・・・自分の名前ぐらいもう少し綺麗に書けないのか。

「…」

こればかりは本人の資質の問題だ。このまま汚い字で進むやつも居れば綺麗に正すのも居るだろうし。とりあえず読みにくいやつは後回しだ。先に読み易いほうから目を通していこう。

「・・・ん、もう昼か。今日はどこで食うか」

近くの蕎麦屋か、たまには丼か。はぁ、歳は
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