石鹸

「いらっしゃい♪珍しいわね、貴方が此処に来るなんて?え?お湯が出なくなったの?あらあら・・、それじゃ直るまではこちらに?・・・そうですか、明日には直るのですか・・。あ、いえいえ、そういう訳では。それでは、ごゆるりと・・」

少し残念ね、今日しかウチに来ないなんて。でも、一回でも充分だわ♪ちょうど今日はあの子が来る日ですし。くふふふ・・・
#9829;どうなっちゃうかな〜♪


「あら、噂すれば・・いらっしゃ〜い。ちょうど良かったわ♪今ね・・・」













〜一番風呂〜



今日はついてないな。折角定時で帰ってこれたというのに、まさか湯が使えない状態になってたなんて。最近忙しくて業者にメンテナンス頼んでなかったのが不味かったんだよな。前々からちょっとおかしいな、とは思ってたけど。次からはこまめにみてもらおう。

「知り合いのとこで風呂を借り・・、やめとこ。アイツ確か結婚したばかりだし」

いくらなんでも新婚ほっかほかの御宅に風呂貸してくれ、というのも気が引ける。逆の立場だったら間違いなく断わりそうだし。あー、そうだ。確か近所に銭湯があったよな。一度も行った事が無いから忘れかけてたわ。なんだっけなー・・あの名前・・。ほら、あれだよ、あれ。えー・・、そうだ!金玉の湯だ!あまりにもネタな名前すぎて笑った事あったんだ。ちょっと恥ずかしいけど行くしか無いか。

風呂セットを用意して、のんびり出掛ける。えっと、ウチから2〜3分ぐらいの・・ああ、あったあった。通勤に使う道とは正反対のとこだから忘れそうだったよ。結構近いとこにあったんだな。暖簾がいい味してるわ。それじゃ、入ってみるか。お、番台が妖狐なのか、てっきり稲荷様かと思ったんだが。

「いらっしゃ〜い♪金玉の湯へようこそ〜。お一人ですか〜♪」

「・・・・・・ブフゥ!!」

「どうしました、御客様?」

「い、いえ・・・、ここって金玉・・の湯ですよね・・」

「御客様・・・・・、

ここは金玉(こ・ん・ぎょ・く)の湯でございますわ♪決して金玉(き・ん・た・ま)の湯ではありませんので御間違えのないように!」

だ、ダメだ・・。また笑いが込み上がって来る。笑うな俺、笑うな俺!なんだかきっつい罰ゲーム感覚だ。番台の妖狐さんが大声で『きんたま!』って叫ぶのってどんなシチュだよ。

「ご、ごめん、今度から・・ぷふっ・・間違えないようにします・・くっ・・」

「・・・・むぅ〜」

あまり此処に居ると怒られそうだし、さっさと脱衣所に行くか。おお・・、結構広いな。この畳と茣蓙の触り心地最高。しかも、俺が一番客か。風呂が使えなくなったのは痛いけど、この風呂を一番先に味わえる事が出来るなんて最高だな。とっとと服を脱いで放り込んで、っと。

「おー、いいねぇ。昔ながらの風呂そのままだな。まずは掛け湯をして」

風呂に入る前に掛け湯するのは当然のマナーだからな。汚い体のまま直接湯船に入るなよ?って、誰に説明してんだ、俺?んじゃ、入りますか。

「ふぁ〜〜〜、極楽極楽・・・じじくさっ!」

つい言ってみたくなる名言の一つだな。しかし、意外と客が入って来ないんだな?俺が入ってから10分以上経ったはずなのに・・。

<カラララララ・・・・>

「お?誰か来たみたいだな。・・・って、向こうか」

どうやら女湯みたいだ。ま、別にいいか。その分、一人で満喫出来るんだし。さて、体洗うとすっか。

「あー・・俺んちの風呂もこんだけ広かったらなぁ・・」

所詮、2畳ほどの広さしか無いよ!俺一人分しかスペースねぇよ!せめてもう1畳分の広さが欲しい。安月給の俺には無理な相談だけど。懐的に・・。さて、先に頭から洗うとすっか。ふはぁ〜〜、冷たくて気持ちいい。やっぱ男はクールだろ。このさっぱり感と爽快感が充実してないとな。頭皮をごりごりと削るぐらいの強さで髪を洗うのは超スッキリする。あんまり強く擦ると髪が痛む?将来が怖い?そんな事気にしちゃいかんよ?

「はぁ〜、ええ感じやー・・」

少しばかり低い温度の湯で洗い流す。これこれ、この冷たさがダイレクトに伝わってくる感覚って最高だな。次はボディソープを・・と、ありゃ?最悪だな、間違えてほとんど空の容器を持ってきちまった。あー、これどうすっかな。折角久しぶりに銭湯に来たってのに、体洗えないのはなんか損した気分だ。しょうがない、家に帰った後で水シャワーで体洗うしかないか。

「石鹸でも持ってくれば良かったな・・・」

「はい、どうぞ」

「ああ、ありがと。・・・・おわっ!?」

壁向こう、女湯との仕切り壁の上から紐で吊るされた石鹸が入ったケースが一つ。すっげーびびったけど、とりあえず使わせて貰おう。

「どなたか知りませんが、有難く使わせて頂きます」

「はい♪」

いい声だな
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