またか。俺の顔を見ただけで通行人が避けるように逃げていく。こんな生活も既に慣れたが、やはり気は滅入ってくる。誰も好んでこんな顔になった訳じゃないのに。皆が俺を避ける原因は顔にある酷い傷のせいだ。左目を中心に僅かばかり外向き感じで斬られたような痕が付いている。それに加えて強面のせいで周りからはあっち系のような扱いをされてまともに会話もしてくれない。この傷は暴力沙汰で作ったんじゃない。事故に遭って付いてしまった傷なんだ。こう言った所で誰も信用してくれないけどな。どこからどう見ても任侠映画に出てきそうな顔付きに刃物で付けられたような左目の眉上から左頬まで通った斬り傷。この傷のせいで眼つきも悪くなり更に状況が悪化。どっちに転んでも同じ結果を辿る毎日。
「はぁ・・・、ま・・いいか」
今日も行きつけの眼科に足を運ぶ。定期的に眼科に行って左目の検査をしないといけない。本当なら、あの事故の時に俺の左目は失われていたはずだったがぎりぎり処置が間に合ったおかげでなんとか失明は免れた。免れたと言っても、いつ失明するかどうかの瀬戸際なので正直もううんざりだ。こうやって眼科に通うのも億劫だ。
「三田さーん、三田 圭介さーん」
呼ばれた俺は手前の診療部屋では無く、一番奥の部屋へ入る。ほんの僅かな事で失明するかもしれない俺の目は人間の手では治せない。なので、俺は奥の部屋に居る魔物娘から治療を受けている。
「久しぶりじゃのぉ、と言っても3日ぶりかの」
「・・・どうも」
「お主、・・・もうちょい愛想良くならんのか?」
「別に・・・」
「ま、良いわ。さ、そこの椅子に座るがいいぞ」
椅子に座った俺の目を覗き込む山羊角を生やした幼女。バフォメットと言うらしいが・・俺の想像とは全く違うのは言うまでも無く内緒だ。だが姿は幼女かもしれんが中身はとんでもない年齢らしい。前に一度だけ年齢の事を聞いたら玄関までぶっ飛ばされた。
「ふぅ〜〜む・・、いつ見てもやはり傷が深すぎるのぉ・・。これほどの傷を受けて失明しなかったのが本当に奇跡じゃわい・・。・・・ユニコーンが居れば簡単に完治するんじゃがのー・・」
今ここに居ない相手を口に出してもしょうがないだろ。
「ふむ、それでは・・いつもの治療を始める。用意はいいな?」
「・・・お願いします・・」
俺の左目に右手を翳し僅かずつだが魔力を流し込んでくる。痛みは感じない。ただ、何かが俺の体に侵入してくる感じがするだけだ。この感覚は少しばかり不愉快だ。一週間に2度も3度も味わいたくない。だけど、これをしないと左目が失明してしまう恐れがあるので我慢する。
「ほれ、終わったぞい。・・・ところで」
「何だ?まだ何かするのか?」
俺の前で両手を合わせモジモジと体を揺らすバフォメット。一体何を言いたいのやら。
「ほ、・・ほれ・・。例の物はどうしたのじゃ!」
「・・・。ああ、あれか。それなら持ってるぞ」
俺は胸ポケットから写真を数枚取り出しバフォメットの前でちらつかせる。
「早くそれを寄こすのじゃ!」
「はいはい・・、ったく・・まさかあんたがうちの弟に目を付けてたなんてなぁ。世間は狭いもんだよ」
持ってきた写真には俺の弟である渚が写っている。それを俺の手から奪うように取っていき、診察机の上に並べはじめた。
「渚きゅ〜〜ん♪ワシが立派なお兄ちゃんにしてあげるから待ってるのじゃ〜
#9829;」
「・・・・目の痛みより心の痛みのほうがきつくなってきた感じがする・・」
「む?それはいかんのぉ・・・、お主は将来、叔父になるのじゃから健康で居てくれんと困るのー」
叔父確定かよ。とりあえず、目の前の変態はほっといてさっさと帰ろう。これ以上付き合ってると何を言われるかわかったもんじゃない。
「あ、ちょっと待つのじゃ」
「・・・まだあんのか?」
「と、ところでの・・・渚きゅんは・・次の日曜・・居るかの?」
「えーとだな・・、次の日曜は・・ああ、そうだ。新作のゲームが出るみたいだから買いに行くらしいぞ。俺はゲームしないんでタイトルはわからないんだけどな」
「そうかそうか♪新作のゲームを買いにか・・にゅふふふふ・・・♪」
渚ごめん、兄ちゃんちょっとだけ口が滑ってしまったよ。今度お詫びに渚の好きなタルトを買ってくるから許してくれ。
「それじゃ、・・また3日後に・・」
「うむ、気を付けるのじゃぞ」
病院を後にし、のったりとした足取りで繁華街を歩いていると、黒ワンコ姉ちゃんに呼び止められ職務質問された。俺の顔を見るなり何か手帳のような物を取り出し俺と手帳を交互に睨んでいる。きっと不審人物扱いされてるんだろうな。
「ん〜・・、失礼だが住所と名前をお聞かせ願えないだろうか?」
「三田 圭介27歳だ。住所は●●
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