誰も起きてない早朝、今日もボクはお気に入りの浜辺を歩く。潮風を全身に受け淡いエメラルド色に染まった両翼を大きく広げ大海原を見つめる。見つめる先には何も無いけどそれでも毎日の日課のように海の彼方、地平線の向こうを眺めた。
「んぅ〜〜〜〜♪今日もいい天気になりそう!」
大きく伸びをして足元の砂を軽く踏みしめるとキュッと音が鳴る。この辺りの砂浜は清潔に保たれているせいか一歩踏み出す毎にキュキュッと甲高い声で鳴いてくれた。
「んっ
#9829;今日も綺麗な声で鳴いてくれるんだね♪」
鈎爪の足が砂浜を踏むたびに心を癒してくれるような可愛らしい鳴き声が足元から聞こえてくる。いつものように砂浜を散歩していたら遠くのほうの波打ち際に何か転がっているのが見えた。ここからじゃ良くわからないので近寄ってみると、そこにはコルク栓が嵌った大きなガラス瓶が波に押され、時には引かれ、揺ら揺らと砂浜を転がっている。
「…?なんだろ?紙みたいなのが入ってる・・・」
ボクはガラス瓶を右足の鈎爪で軽く握り、ポンと上へ跳ね上げ翼で挟みこむようにキャッチした。
「ぅ〜〜ん???これって・・・手紙なのかなぁ?でも・・・手紙ならハーピー便に任せたほうが速いだろうし」
瓶を両翼でしっかり挟んだまま家に戻るとお父さんとお母さんが食事の用意をして待っていてくれた。
「今日は早かったのね?あら、その瓶はどうしたの?」
「ん〜〜?よくわかんないの、砂浜を散歩してたらあったの」
ボクは両方の翼でコルク栓を挟みこんでギュッと捻ってみるけど全然動いてくれない。かなり頑丈に押し込んでいるみたい。悪戦苦闘していると、見るにみかねたお父さんがワイン用のコルク栓抜きを持ってきて簡単に引き抜いてくれた。
「手紙みたいなのが入ってるね?」
「そうだな・・・?ほら、リーニ。読んでみなさい」
お父さんが瓶の中で綺麗に折り畳まれていた手紙を抜き取って手渡してきた。その手紙を受け取ったボクは翼を器用に使い折り畳まれた手紙をそっと開いてみる。
「えっと・・『この瓶を見つけてくれた方、僕と文通してください。・・・(略)・・・クリス・アンフェルより』・・・だって」
「瓶に手紙を入れて海に流すなんて珍しいな。それにしても…マーメイドやメロウがよく気付かなかったもんだ・・。こんな内容の手紙を見られたその日には襲われ・・ゴホン、求婚されているだろうしな」
別に言い直さなくていいのに。でもどうしよう、この内容だとお返事が欲しいみたいだし。それに誰だかわからない人に御手紙を書くなんて・・・。一人もどかしくしてるとお母さんがボクの後ろから手紙を覗いてきた。
「あらあら、どうしたの?お返事書かないの?」
「えっ?・・・知らない人に返事するなんて・・」
「でも・・この手紙、男の人・・?子かなぁ?そんな感じの匂いが付いてるわよ?」
「エッ!?嘘!?」
手紙を鼻先に押し付けて匂いを嗅いでみるけどボクにはわからない。でも、お母さんが言うから間違い無いと思う。さっきまで迷っていたけど手紙を流した人が男の人ってわかった途端に御返事を書きたくなったきた。
「そ、それじゃぁ・・ちょっとだけ書いてみるね・・」
ボクは朝食もそこそこに部屋に篭ると急いで机の上に御返事を書く物を用意する。女の子らしい可愛い便箋とボクのようなセイレーンでも僅かな魔力で持てる羽ペン。それにインクと封筒。準備はバッチリ。ペン先にインクを僅かに滲ませ便箋と向かい合うけどどんな返事を書けばいいのかわからない。
「あぅ〜〜〜・・・、御手紙なんて滅多に書かないから何書いていいかわかんないよ〜・・。こういう時、リャナンシーって羨ましいなぁ」
歌うのは得意でも文章を綴るのは苦手。ただ、ただひたすらに悩んで無駄に時間を消費していっちゃう。
「ぅ〜〜・・・、何て書けばいいのかなぁ。・・・そうだ!いいよ、って書けばいいんだ!」
ボクはただ一言だけ手紙に『いいよ』と書き、手紙の一番下に書かれている住所をチラリと見た。
「・・・フーリィ?これってどこだろ?聞いた事無い街だなー。あ、お父さんなら知ってるかも!」
部屋を飛び出し、居間で寛いでいたお父さんにフーリィの場所を聞いたらすっごく困った顔をされちゃった。なんか変な事を言っちゃったのかな。
「リーニ・・、その街は中立・・いや、中立とは名ばかりの教団寄りの街だ・・。まさか、その手紙はフーリィから・・なのか?」
「ぅ、うん・・そうみたいなの。ほら、手紙の一番下にフーリィって」
お父さんは手紙の一番下をチラリと見ると残念そうな顔をした。
「確かにフーリィだな。・・・リーニ、残念だけど返事は書かないほうがいいな」
「えっ、どうして!?」
「さっきも言ったけど、フーリィは教団寄りな
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