姉さんから新しいお店を貰ってすっごく嬉しかったけど・・・。御客様来ないね。私は一人愚痴りながら魔界銀で作られた銀貨を指先で弄びカウンターで突っ伏した。あの日、姉さんと一緒に日本を魔力の霧で覆ってからもう数年。いまだにゲートはあまり大きくならず、こちら側に行き来出来るのはそこそこの魔力を持った魔物娘だけ。早く大きくならないかなぁ。私は言うに及ばず簡単に行き来出来るので不満は無いけど日本に来れない娘達が可哀想だ。今度姉さんが主催している抽選会に顔を出そう。一人カウンターの中で不貞腐れる私だったけど、今日やっと初めての御客様がパーラーI☆ZA☆NA☆Iへと入ってくれた。
初の御客様は齢90になろうかと思われる御老人。使い込まれた杖に必死にしがみつき足元を震わせながらもゆっくりとした足取りで入り口に近い台に座ろうとするが足元がおぼつかないせいか上手く座れない。そんな姿を見た私はすぐさま手を差し伸べに行く。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
「ふぉふぉ・・・、大丈夫じゃよ・・。椅子に座るぐらい・・」
そう言いながらも御爺さんの体はよろめく。私はすぐに手を差し出し体を支えてあげると御爺さんは少しだけ困ったような顔をした。
「ふぉほ・・、こんな別嬪な御嬢ちゃんが・・ワシャのようなじじぃ触っても嬉しくないじゃろ〜」
「・・・いいえ、私は御爺さんの・・人生が刻み込まれた深い皺も、何度も何度も酷使して荒れてしまったこの手も・・若い頃は元気に走り回っていたこの足も・・全て大好きですわ♪」
「ほほっ・・、こんなじじぃになっても、・・御世辞でも美人に言われると・・嬉しいもんじゃな〜」
「御世辞でも嘘でもありませんわ♪御爺さんには私には持ってない深い深い愛情と数々の苦労を伴侶と共に乗り越えて生きてきた逞しく素晴らしい人生がありますもの」
そう言って私は御爺さんの皺と傷だらけになった手の甲と人生を深く彫りこんだような皺だらけの頬に軽くキスをする。
「ほほっ・・・!冥土の土産に・・いいもん貰ったわい・・」
「フフッ♪奥様に嫉妬されないでね♪」
「ふぉふぉふぉ・・。それじゃぁ・・久しぶりに打ってみるかのぉ〜・・・」
「ふふふ
#9829;頑張ってね♪」
私は軽くスキップを踏むような足取りでカウンターに戻り笑顔のまま御爺さんを眺める。きっと、この御爺さんが御持ち帰りする子は・・。
そう、これから語られるのは、初めて私のお店から銀貨を持ち帰った御客様の御話。ゆっくり聞いていってね
#9829;
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早朝6時前、小さな平屋建ての家の寝室兼自室で91歳の老人が眼を覚ます。
「・・ゲホゲホ・・ふぉふぉ・・・、皐月や・・、わしゃぁ・・今日も生きてるわぃ・・」
起きて早々に寝室にある仏壇に向かって声を掛ける老人。仏壇に置かれてある位牌には 花形 皐月 と彫られていた。そして勢い良く開けられる襖。
「源じぃ〜〜・・、おはよー!」
「ふぉほ・・、おあよ〜・・・」
寝起きのせいか孫に上手く挨拶出来ない老人の名は 花形 源一郎 という。源一郎は布団の脇に置いてあった杖を支えに体を起こすが中々立つ事が出来ない。
「ほれ、じいちゃん」
「んん・・済まんの・・」
孫に軽く腕を引かれ背筋を曲げながらも立ちあがる。そして杖を頼りに居間へと入り朝飯に用意された御飯と味噌汁、消化しやすい玉子焼きなどを僅かずつ食べていく。ゆっくりと咀嚼する姿からは生気があまり感じられない。
「ほふっ・・ほふ・・。ん・・・んぐ・・・ふはぁ・・」
「あら?御父様、もう食べないんですか?」
源一郎の息子の嫁が心配そうに声を掛けてくる。だけど源一郎は なんでも無い と一言だけ残し自室へと戻る。自室に戻った源一郎は仏壇に向かい手を合わせ (皐月や・・もうじき・・逢えるからのぉ) と誰も聞く者が居ない部屋で一人呟く。源一郎はそれから何をするのでもなく部屋で篭りきりになる。そんな様子を毎日見ていた孫が襖を勢い良く開け放つとポケットから1万円札を取り出し源一郎の手に握らせた。
「じいちゃん!こんなとこで篭ってもばあちゃん喜ばないぞ!・・・ばあちゃんだってそんなじいちゃん見たくないと思うし」
「・・ふぉふぉ・・、そうじゃな。お前の言う通りじゃの・・、どれ、たまには・・出掛けてみるかのぉ」
源一郎は傍らに置いてあった杖を使い自力で立ち上がると亀のような動きで玄関に向かい使い込まれたボロボロの靴を履きだす。
「・・・・この靴もワシと同じじゃな・・よぉ頑張ったのぉ・・」
源一郎は自らの老いた姿を馴染みの靴に意識を重ね皺だらけになった靴を一撫でするとゆっくりと足を入れた。
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