今日も自ら書いた原稿を片手に人魔の新聞社を問わず持ち込みに行ったが惨敗だった。人からは『普通過ぎてつまらん』と言われ魔物娘達からは『愛が足りない!』と言われ全く評価されなかった。最高の出来栄えだと思った物が一蹴された瞬間、俺の中の何かが崩れる感じがした。教団領内で書いていた頃はそこそこの人気があったが、中立や新魔の土地で書くと一蹴されて終わる。どうやら俺は天狗になっていたようだ。反魔の土地で売れたからと言ってこちらでも同じように通用するとは限らない。そしていつもと同じように一人寂しく肩を落としながら街の中央にある噴水広場のベンチに腰を下ろした。
「今日もダメだったかぁ・・・。愛が足りない・・・普通すぎる・・か。どうせ俺は独身だし愛も何もわかんねぇよ」
一人ぼやきながら街行く人を眺める。眺めていれば何か良いネタが見つかるかもしれない。ネタとは常に日常に有りだ。ぼんやりと道行く人を眺めていると隣に誰かが座ったようだが俺は気にせずに人の流れを見続けた。何も変わらない日常を眺めていると隣から軽く突付かれる。
「な、・・・なぁ、兄ちゃん。悪いんやけど何か紐みたいなもん持ってへんか?」
いつから居たのか刑部狸が俺の肘を突付いている。
「すまんけど兄ちゃん、なんか太めの紐持ってへんか?」
「太い紐?持ってないが今すぐ必要なのか?」
「下駄の鼻緒が切れてもうてなー…、なんとかして結ばんと帰れんわ〜」
足元を見れば下駄の鼻緒が根本から綺麗に千切れていた。
「下駄か・・、確か家にそれに良く似た新品の下駄があったと思うが・・。どうせ俺が使う事は無いだろうから使っていくか?」
「ほんまにええんか?後で金寄こせとか言わんやろな?」
「流石に刑部狸は疑り深いな。ま、いくら疑った所で金は要らん。ほら、乗れよ」
俺は刑部狸の前にしゃがみ早く背に乗れ、と合図する。背中にゆっくりとおぶさってくる刑部狸。俺はゆっくりと立ち上がり家へと案内する。
「なぁなぁ兄ちゃん、あんたの名はなんていうんや?」
「あ?フランド=ノールだ、売れない小説家やってる貧乏人だ」
「へー、兄ちゃん小説書いてるんか。うちは椿や、よろしゅうな」
噴水広場から10分ほど歩くと俺のぼろ屋が見えてきた。
「あれが兄ちゃんのウチかいな・・。ごっついボロやな」
「・・・ぼろ言うなよ。あれでも我が家なんだからな」
情けないもんだ。初めて家に招いた女性(魔物娘だが)にボロと言われ何も言い返せない自分が本当に情けない。ぼろのドアを開け自分のベットに刑部狸を下ろすと隣の部屋へと入り小さな箱を探し出す。箱には少しばかり埃が被っていたが拭けば綺麗になった。そして隣の自室に戻り刑部狸に差し出した。
「これを持っていけよ。あんたなら似合うだろうし」
「ほんまにええんか?返せ言うても返さへんで?」
椿が無造作に箱を開けようしたが手が止まる。
「兄ちゃん、これ・・どこで手に入れたんや?」
「どこって、・・小説のネタにしようと思って友人に送ってもらったんだが放置したまま忘れかけてた・・。あれはいつだったかなー・・?」
「この箱に付いてる紋はジパングでも一、二を競う老舗の家紋や・・、こっちで言うとサイクロプスの銘を刻んだ武器みたいなもんや」
「ふーん?」
「ふーん?ちゃうわ!アンタこれめっちゃ高いやつやで!」
よくわからないが高価な品らしい。だが俺には興味が無かった。女性の下駄なんて持っていても履けないしな。
「良くわからんが持っていけよ。と、いうか履いていけよ」
俺が箱の蓋を開けて中を覗くと寒椿の絵が塗られた綺麗な下駄が入っていた。
「これは寒椿か。お前の名前にぴったりだな」
「にいちゃん詳しいんやな」
「これでも小説書いてるからな。覚えておいて損は無いと思ってる」
そっと下駄を摘み椿の前に揃えて置く。それにゆっくりと足を通していく椿。
「ふわぁぁ〜・・・。最高の履き心地やわぁ〜・・・」
俺はジパング人じゃないから下駄の履き心地はさっぱりわからんが椿の顔を見るとよほど気持ちいいんだろう。
「これで帰れるな。そうだ、さっきまで履いてた下駄をこの箱に入れていけよ」
「兄ちゃんありがとうな、これで帰れるわ。せや、兄ちゃん、アンタの小説ちょっとだけ読ませてくれへんか?」
俺は今日持ちこんだ小説を椿に手渡す。
「ふんふん・・、ん〜、あー・・なんちゅうたらええんかな。これじゃ売れんわなー。堅苦しいちゅうか・・面白味が無いちゅうたらええんか・・」
厳しい一言だ。素人相手にここまで言われるとは思っても無かった。普通過ぎる、愛が足りないの次は堅苦しくて面白くないと来た。流石にここまでストレートに言われるとへこむ気力も湧いてこない。
「兄ちゃんの小説、真面目に考
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