〜まだ見ぬ貴方に逢う為に〜
世界で最も厳しいメイド養成学校に来て5年。もうすぐ卒業出来ると思うだけで胸の鼓動が一層高まります。あ、申し遅れました。私はキキーモラのクローシィです。そこの人、今『キキーモラなんだからメイド養成学校なんて必要無い』とか思いませんでしたか?それは違います。私達キキーモラと言えども初めから当たり前のようにメイドスキルがある訳ではないのです。地道な反復練習や礼法作法、一般教養、メイドとしての立ち位置と色々と学ぶべき事が多いのです。特に大事なのは常に御主人様の傍らに寄り添い、全てに於いて満足させられるように努める事。そう、これから先ずっと御主人様の為だけにあらゆる面で満足の行くよう・・。
「クローシィさん。クローシィさん、居ないのですか?次は貴女の最終試験ですよ」
「は、はい!今すぐに」
さ、気を引き締めて最終試験に臨まなきゃ!今日の試験結果次第では明日から晴れて一人前のメイドとして活躍出来るのですから。
「さ、クローシィさん。今から私の事を御主人様と思って今まで学んできた事の全てを・・・何ですかそのお顔は?」
「い、いえ・・ロット先生は御主人様というよりお母さんみたいな気がしまして・・」
私の最終試験担当のこの方はロット先生。メイド養成学校の副学長でもある人間の女性です。御歳のほうは・・・内緒です。
「ば、馬鹿な事を言うんじゃありません!全くもう・・貴女達ときたら私の事をお母さんなどと・・・」
やっぱり私の他にも同じ事を思ってる人が居たのですね。
「コホン、それではクローシィさん。これより最終試験を行ないます。今まで培った知識、技能、全てを振り絞り試験に臨みなさい。試験時間は私が『ここまで』と言うまで続きます。終わりまで気を抜かぬよう・・・では始めましょう」
「はいっ!!」
あ、ロット先生が普段実践授業に使ってる洋館の方へ。違います、今は御主人様と思って行動しないと・・・前に出過ぎず後ろに下がり過ぎず。
「・・・・よろしい」
…ッ!ダメッ!一度だけの褒め言葉に惑わされちゃダメ。『ここまで』と言われるまでは試験時間なのですから。洋館の扉が近づいて・・・今このタイミングで前に出て扉を開いてお迎えしなくては。
「おかえりなさいませ、御主人様」
「ほんの僅かですが気が急いていたようですね。心に焦りを持ってはいけません」
「申し訳ありません・・・」
なるべく音を立てぬように扉を開きロット先生こと御主人様をお迎えします。そして後ろ手に閉めるのでは無く扉のノブに両手を添える形で静かに。
キィィ…パタン
音が!
「そこまで細心の注意を払う必要はありません。音が鳴るという事は迎え入れた合図でもありますから。それに我が家に音も無く忍びこむなんて家主である主人がする事では無いでしょう。もし音も無く扉が開き見知らぬ者が居た場合はどう対処すべきかわかっていますね?」
「はい!まずはしっかりと相手の顔や特徴を覚え、相手を刺激せぬよう心を穏やかにして接する事。そして主人に対して狼藉を働く者かそうでないかを瞬時に区別する事です!」
「正解です・・・と言いたい所ですが及第点です。まず貴女がすべき事は御主人様の交友関係を先に覚える事です。音も無く入って来た方が御主人様を驚かせようとこっそり入ってきた御友人という事もあります。一瞬の判断ミスも犯してはなりませんよ」
そうでした、私が仕えるべき御主人様の御友人かも知れない方に不快な思いをさせてはいけません。流石はロット先生です。いくつもの可能性の道を瞬時に判断出来るようにならないといけません。
「それでは次の試験は書斎で行ないます」
書斎ですか、これならバッチリです!どんな事にでも対応出来るように御友達に何度も御主人様役をやってもらいましたから。
「喉が渇きましたね」
「今すぐ紅茶を淹れ『珈琲が欲しいわ』、はい、今すぐ御持ち致します」
バッチリです、練習通りに急な変更でもすぐに対処出来るように頑張った甲斐がありました。後は授業で習った通りに珈琲をお出しして完璧です。
「御持ち致しました、御主人様」
「ありがとう…ん、美味しいわね」
「ありがとうございます」
「ですが、減点です。この珈琲は私の好みであって御主人様の好みではありません。確認を取ってから味を決めましょう」
やはりロット先生は厳しいお方です。この僅かな遣り取りで私に欠けている物を的確に探し出すなんて。このままでは簡単に合格出来るなんて思わないようにしなきゃ。慢心は全てを壊します。今までの努力を無駄にしない為にもしっかり対処出来るようにしないと。
「あら、インクが切れてましたわ?」
・・・!ここでキキーモラとしての名誉挽回を!
「はい、此処に」
「
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