仕事帰りに汚い黒猫を見かけた。ただそれだけのはずだったが、その汚い猫はあろう事か俺に摩り寄ってきたんだ。黒猫が前を横切るだけでも不吉だというのに汚いわ臭いわ挙句に顔なんてヤニだらけで何処をどう見たら猫と認識出来るんだろうかと不思議に思うほどに酷い。ニャーと鳴かなければ小汚い黒い毛玉としか見れないほど毛もボサボサで可愛さの欠片なんて一片も無い。今も俺のズボンの裾に何度も体を擦り付けて見事に自身の汚れを裾に擦りつけてやがる。
「・・・不吉だ」
別に猫好きでもなんでもない俺がこんなに懐かれるなんて有り得ない。それどころか今まで猫に好かれた事なんて一度も無いのに何故突然にここまで懐かれるんだ。こいつは本当に猫なのか?
ニャー……
「やっぱ猫だな・・しっかしお前くっせーなあ。どこをどうしたらこんなになるまで汚れるんだよ」
・・・ニャー
首根っこを掴み顔の前まで吊ってみた。これまた臭い。これは・・・ドブに落ちたかゴミ捨て場に隠れ住んでたか。たぶん見た目からして前者だろうな。手足にガピガピに乾いた泥が大量に付着してるし。
「クソッ・・しゃーねーか。確か帰り道に公園あったな。とりあえずそこで洗ってやる」
臭いから首根っこを掴んだまま公園まで連れていく事にした。流石にここまで臭いと抱き上げるなんて出来ない。服が汚れるどころか匂いまで染み込みそうで御断りだわ。
「シャンプーもリンスも無いけど我慢しろよ」
噴水横とかの中途半端な高さに設置してある蛇口ってこういう時は便利いいよな。ほら、ここで洗ってやるから大人しくしてろよ。
ニャー・・
「った〜・・くっせーなあ。どうやったらこんなに臭くなるんだ。こうなったら水掛け流しで洗うしかないな」
まずは尻尾から落としてやるか・・・・ん?んんっ!?こいつ・・黒猫じゃない?洗った部分が透き通るようなグレーになってる。それにこの人懐っこさ、もしかしてこいつは元々飼い猫だったのか?もしそうだとしたら飼育放棄・・。世の中には酷い奴も居るもんだ。
「・・・もうちょい我慢してろ。絶対に綺麗にしてやるからな」
く・・くっさー、これ汚れ洗い落としても臭いまでは完全に落ちないタイプのあれだ。一番厄介なやつじゃねえか。しょうがねー、ここまで関わったからには家に連れ帰って風呂で洗い直してやる。くっさ・・・。
「さて・・この臭いのを先に洗わないと飯が食えんな。風呂は自動で温まってるからこんな時は助かる。さ〜てニャンコちゃんよー、今から洗い直してやっからなー」
ニャー・・・
なんかこいつ元気無いな。そういや見かけた時から妙に静かだし。ちょっと腹周りを確認っと・・。
「こいつほとんど何も食ってないな。ガリガリじゃないか・・」
何でもある今の世の中でここまでガリガリってのは虐待を通り越してる。でもまずは洗いからだ。汚いままでは飯はやれん。
「・・・猫用のシャンプーなんて持って無いし俺の使ってるやつでもいいだろ」
お、おおお・・すげえ。水だけじゃ落ちなかった汚れが全部落ちた。洗えば洗うほど毛が綺麗になっていく。やっぱ汚れ落とす時は湯が一番だ。
ミャー・・・
「よーしよし、よく我慢したな。今からたっぷり食わせてやるから待ってろ」
冷蔵庫は、鰤の刺身と豚肉と野菜ばかりか。確か戸棚に鰹節があったと思うが。
「あったあった、これぐらいなら大丈夫だろ。ほれ、こっちこーい」
ミャー・・・
まずは先に水を飲め。今まで汚い水ばかり飲んでただろうしな。
ピチャピチャ…
ん、もういいのか。鰤の刺身食ってみるか?
ハグッ・・・クチャ・・クチュ・・
いけるみたいだな。寄生虫とか細かい事はわからんから安心出来ないけど食ってるから大丈夫だと思いたい。ほれ水も飲め。交互に食わんと胃がびっくりするぞ。次は鰹節だ。少しずつ味わうんだぞ。
ニャーン♪
「少しは元気出たみたいだな。明日は保護施設に連れていってなんとか飼い主探すように言ってやるから安心しろ」
・・・ミャァー
「元気無くなったな?どうした?もしかして飼い主に虐待でもされてたのか?んな訳ないな・・、これだけ人懐っこくて毛が綺麗な猫を虐待する理由なんて無いだろうし・・んー?」
まさかとは思うけど有り得ない話じゃないがもしかして。
「お前もしかして・・迷子なのか?」
ニャァ〜ン♪
凄く嬉しそうに尻尾振ってるな、もしかして当たったのか?もしアタリだったら困ったな。下手に保護施設に入れるよりか暫く預かって迷い猫の情報見たほうが早い。しょうがない暫くの間だけ飼うか。
ニャ〜ン
あれ?今尻尾が二本揺れてたような気がしたが・・気のせいか。触っても一本だよな。慣れない事して疲れたんかな。
「刺身はあげちまったし、後は豚肉と野菜ばかりか。野菜炒
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