「今日はギリギリですね」
僕は彼女に言った。
つまらない世間話だけでも僕の心はまた浮き足立ってしまう。
「寝るのが遅かった」
素っ気無く言い放つと、手を自分の首の後ろに回して組んで眠気を叩き出すかのように伸ばした。
目を閉じて少し気持ちの良いような表情を見せているのは、僕の妄想であろうか
「美容に悪いですよ」
「うるせぇ」
僕がそう言うと、彼女は少しムっとして僕の頭を勢い良く叩いた。
乾いた音が教室に響いたが、クラスメイトは皆慣れていて誰も気にしなかった。
この前は僕以外の男子生徒にしたら、彼はぶっ倒れて病院送りになったというのに、何故か僕は他の皆より少しだけ丈夫なのかもしれない
「痛いじゃないですか」
「うるせぇ」
一応痛いので言うが、彼女はまた同じ言葉で一蹴してまた気持ちよさそうに伸びをした。
一度何故そんな事ある度に僕を叩くのかと彼女に聞いたことがあったが、その時も今のような調子で『うるせぇ』と言ってまた叩いてくる。
それ以来僕はこの事について質問する事はやめた。
そんなやり取りを続けているとチャイムが鳴った。
毎日聞いていても嫌にならない音の一つかもしれない。
その単調なリズムは人を正確に動かしてくれる。
まぁ彼女にとっては全く関係ないだろうが。
チャイムが鳴ってしばらくすると担任が教室に入ってくる、いやしばらくするとってのは間違いでなり終わった直後だ。
きっとスタンバイしていたに違いない、このクラスの担任は本当に時間と規則に厳しい『アヌビス』だ。
「皆さん、おはよう」
声は柔らかく優しげな雰囲気が漂うが顔はまるでドーベルマンの様な犬のそれだ。
未だにこの担任の異様な厳格さには慣れないが、悪い女性で無い事だけはわかっている。
「...荒川。またお前、制服を着てこなかったな?」
さっそくドスの利いた低い声で担任が唸るように彼女に聞いた。
僕は改めて彼女の服装を見てみると確かに女子生徒の制服を着ていない、裾の長いスカートは色だけを似せたデニムパンツであったし、上着のワイシャツに校章は一切見られなかった。
きっとこれも色だけ同じ奴だろう。
「あんなモン着てられるかよ」
彼女はそうまた素っ気無く返すとバツが悪そうに窓に視線を逸した。
するといきなり担任は彼女に向かって何か物を投げつける、早過ぎてよくわからなかったが一瞬白い物に見えたのできっとチョークだろう
「てっ!?」
チョークは見事に彼女の頭部の勇ましい角にぶつかって砕け散った。
すぐさま彼女は窓から投げた本人である担任に視線を戻す。
「何しやがんだよっ」
と彼女は吠えて席を勢い良く立って担任と口論を始める、聞くに耐えない暴言の嵐は僕をその口論の内容よりも、チョークが砕けるスピードと彼女の角の強度は果たしてどのくらいなものかという方に意識を向かわせていた。
まぁそのことについては口論が終わっても考えがつかなかった。
「畜生...」
と彼女はしばらくすると渋い顔をして席に戻ってきた。
喧嘩なら負け知らずな彼女でも、さすがに口喧嘩では担任に勝てなかったようだ。
「大丈夫ですか?」
彼女が戻ってきたことに気付いてどうでもいい考えを終えると、僕は直ぐ様声を掛けるが、やっぱり彼女の返答は「うるせぇ」だった。
ブスっとして座って窓を眺める彼女を見ると、角だけではなく顔と身体にも少々チョークの砕け散った跡が残っていた。
意外に担任は平和的解決を求めない女性のようだ。
結局彼女は、HR中もずっとバツ悪く窓の外を眺めていた。
僕はその横で彼女を真っ白けにした担任の説明やら連絡を聞いていたが、横にいる彼女のことを考えるとさほど頭に入ってこなかった。
早く白い粉を拭くことしか頭になかった。
しかし、どう言って彼女の身体を拭けばいいんだろうか?
いきなりハンカチで拭こうとしてきっと嫌がられるだろうし、最初に断っても普通嫌がるのではないだろうか?
どちらにしろ失敗すれば彼女の鉄拳が飛ぶことになるだろう。
そう悩んでいる内にHRは終わっていた。
自然と他の生徒達が席を立って騒がしくなる、喧騒の中に紛れて北里が彼女の席に寄ってきていた
「姉御!大丈夫っすか?」
先ほどの口調とは打って変わっていた。
北里は彼女のことを姉御分として慕っている、いつからだったかは覚えていないが昔助けられたやらなんやら北里自身が語っていたのを覚えていた。
「うるせぇ」
たとえ妹分でもそう素っ気無く言う彼女はある意味誰に対しても平等だ
「とりあえず、お拭きいたします!」
そうぶっきらぼうに言い捨てられても懲りない根性が北里の魅力だと思う、きっと彼氏もそこに惚れたに違いない。
そして、北里は直ぐ様ポケット
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