おお、主よ。
いと高きところより我らを見守り続ける主神様よ。
どうか哀れな私の胸の内をお聞きください。
迷える子羊らを導く使命を持ちながら、暗闇に心を囚われた愚か者をお許しください。
あの日、あの冷たい冬の夜。
幼い姉妹を助けた私には、誓って邪心の欠片もありませんでした。
街灯も届かぬような街の路地で、粗末な麻布にくるまり身を寄り添って寒さに震えていたあの姿を見て、その様なものを抱く者がいますでしょうか。
息を確かめるべく首筋に当てた手から伝わってきた、あの衰弱しきった鼓動と冷たさに、私の心は引き裂かれるようでした。
恐らく、いえ確実に今まで誰からの救いもなかったのでしょう。
今も街行く人々はいるものの、私以外に手を差し伸べる者は一人としていませんでした。
悲しむべき事ではありますが、教団と魔物の抗争が激化し、節制と増税に耐える信者らを責めることは出来ません。
教会神父とは名ばかりのしがない貧乏聖職者でも、しかし命の灯火が消えるとする子供らを前に、私は自らの使命を悟りました。
救われぬ者にこそ手を差し伸ばすことが神職の本懐。
御身より賜りし迷える子羊を導く大任に、この子らを外すことなどあってはならぬと。
羽織っていた外套をかけ、私は必ずや姉妹を救うと誓ったのです。
それからの日々は、放たれた弓矢の如く過ぎ去りました。
冬の路上からすぐさま受け持ちの教会に匿ったものの、初めは警戒する姉妹に幾度も苦心いたしました。
恐らく私の想像など遥かに越えるような劣悪な環境にいたのでしょう。
作りおきのシチューに腹の虫を鳴らしてもこちらを睨み付けるばかりで、ようやく口にしたかと思えばあっという間に鍋一杯も平らげ、そのまま倒れるように寝てしまった二人を前に、途方にくれたものです。
告白しますと、妻帯していない身としては子供の接し方も得意な方ではありませんでした。
しかし御身への信仰を支えに、持てる限りの愛情を注ぎ、善きを誉め、悪しきを正すうちに、真冬の氷が融けるように、徐々に子供らしい笑顔を見れるようになったのです。
怯えと猜疑心の瞳からは険がとれ、盗みや暴力に逃亡もなくなり、いつしか教会の庶務を手伝うようになりました。
ああ、あれこそまさに、幸福な一時だったのです。
孤児院生まれで家族を知らずにいた私に父親などなれるはずもないと苦悶した時期もありましたが、私達は確かに、かけがえのない絆で結ばれておりました。
大人しく気配りも出来る姉のローズも、活発で太陽のような妹のマリィも、本当に健やかに育ってくれました。
清貧を掲げるばかりで苦労をさせたことも何度とあるのに、それでもあの凍える寒空から見違えるほど美しく成長してくれたことが、私の何よりの自慢でした。
年頃になっても中々親離れ出来ないのだけは玉に傷でしたが、器量もいい自慢の娘達がいずれは巣立つと考えていた私に、同じ神職に進むと言ってくれたときは、恥ずかしながら込み上げるものを堪えきれませんでした。
そしてシスター見習いとして改めて二人を住まわせ、同じような境遇の孤児らを集めだした頃、思いもよらぬ朗報をいただきました。
日課となった祈りの最中、姉妹が御身の声を聞いたというのです。
教団にも数多くの聖職者はいるものの、神託を預かった者は数えられるほどしかおらず、そのいずれもが勇者や司教となり人々の平穏を支えているのです。
戸惑う姉妹を前に、私は自らの使命が正しかったのだと確信いたしました。
全てはあの冬の一夜から続いており、いずれ多くの者を救う娘達を導いた今に繋がっているのだと。
そう、私は信じておりました。
信じきっておりました。
ーーーー愚かにも破滅の足音を聞き逃したまま、断崖を目指す道化のように喜んでいたのです
あれは娘達が神託を賜ってすぐのこと。
その時から少しずつ、娘達の様子が変わっていきました。
姉のローズは日中物思いにふけることが多くなり、何処か私を避けながらもじっと見つめることが多くなりました。
逆に妹のマリィは一層スキンシップが増え、身体をすり付けるような動きを嗜めたこともあります。
それらは全て、目に見えないほどの些細な変化なのでしょう。
人によっては自意識過剰と判断されても言い返せないそれに、私も年頃の娘だからと決めつけ、普段通りに接するよう心がけました。
いや、そう思いたかっただけなのかもしれません。
しきりに私の洗濯物や食器を洗いたがったり、過剰なまでの接触を望み、果ては湯浴みで背中を流そうとするなど、それまでの娘達とはかけ離れた現実に、ただただ戸惑うのみで……。
私の知っている愛娘達が、まるで淫らな娼婦の如く見えるなど。
おお、主よ。
愚かな私を罰してください。
御身からの使命を受けながら、私は娘を正
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