呪いの屋敷ハウス

東小野夏樹は悪霊に取り憑かれている。

科学の発達した現代ではにわかには信じがたい事だが、紛れもない事実であった。
補足しておくと、夏樹はただの大学生である。特別な能力や霊感どころか、幽霊すら見たこともないし、そもそもオカルトにもさほど興味もない。
そんな彼が、不可解な怪異に頭を悩まされ始めたのは大学春休み明けのこと。音信不通となった友人を探して、地元でも有名な幽霊屋敷を訪れてからだ。どうやら件の幽霊屋敷を見に行くと某SNSに呟いたっきり行方が分からなくなっているらしい。大学どころか、友人の実家を訪ねても詳細は不明。逆に友人の両親から「何か分かったら教えてくれ」と頼まれる始末で、友人というよりかは友人の両親のため、夏樹はついにその幽霊屋敷へ行くことに決めたのだ。

当然、そこに本人がいるとは思ってない。精々外からちょっと覗く程度で、何か見つかれば、いや見つからなくとも友人の両親に知らせるべきだろうと。そう考えていた。

が、最寄りの駅から歩いて、静かな住宅街。その一角にひっそりと佇む屋敷を見たとき、夏樹は後悔した。

外見はただの洋風な一軒家である。白い外壁とは対象的に庭は荒れ放題で、長らく人の住んでいない場所だと分かる。だが、それでも言葉に出来ない不気味さが、その屋敷にはあった。まるで壁一枚向こうに、正体不明の何かが潜んでいるような気がして知らず知らずのうちに鳥肌の立った腕を抱える。

もう帰ろう

中に入るどころか遠目で見ただけで、夏樹はそう考えた。
頭の隅で友人のことが浮かぶが、余計な考えを振り払う。普通の人間なら、あんな気味の悪い場所には近づかない。
だからいるはずもない。
そう頭の中で言い訳して踵を返そうと、

「……………っ!?」

まるで蛇に睨まれた蛙のように、夏樹の身体が硬直した。
遠く向こうに見える屋敷。
そのニ階にある窓に、人の背格好によく似た白い影を見た気がした。ぼんやりと狭い枠の中に見える何か。遠くてはっきり見えないのに、まるでこっちをじっと見つめている気がして、


確かに、すぅ、と窓から家の中へと消えていった。



「ーーーーー
#12316;〜っっ!!!」

気がつけば、夏樹は一人暮らししているアパートの玄関で蹲っていた。
身体中が汗だらけで、脚と胸が苦しい。どうやら全速力で帰ってきたらしいが、その間の記憶はなく、思い返すのはあの無気味な白い影だけ。

「はっ、はっ、はっ、は、はは、はっ、ははは…」

荒い息に混じって、乾いた笑いが止まらない。
あれは何だったのだろうかと思う反面、考えれば考えるほど頭の中が真っ黒な暗闇に沈んでいく気がする。運動と興奮のせいで身体は暑いのに、体の芯から震えが止まらない。自分ではどうしようもない感覚に、夏樹は玄関で暫く蹲ったまま動けなかった。








そしてその日から、夏樹は悪霊に取り憑かれた。
信じられないが、そうとしか考えられない。夏樹に特別な能力や霊感等はない。幽霊を見たこともないし、そもそもオカルトにもさほど興味もなかった。
だがあの屋敷の影を見てからというもの、得体のしれない何かが、確かに夏樹の傍にいて離れないのだ。

ーーーまもなく、……電車が到着します…

「………?」

最初は、頭の後ろを何かが触れた程度の違和感だった。
場所は大学帰りの駅のホーム。恐らく気の所為だろうが、虫だったら嫌だなと手ぐしで髪の毛を整える。
本当にそれだけのことだ。数秒後には忘れる些細な出来事。だがそれが二度、三度と続いた。

それからハッキリと『触られている』と気付いたのは数日後だった。



「…………っ」

ガタガタガタガタガタガタ

身体中が震える。外は春の陽気で暖かいぐらいなのに、夏樹は真っ暗な部屋の中で、隠れるように布団をかぶっていた。端から見れば滑稽な事この上ないが、本人は至って真剣である。

なんせ、幽霊から隠れる方法なんて知らないのだから。

初めは頭や肩、手、指、足。生活でもよく使う場所が殆どで、さほど気にしていなかった。友人が行方不明となったこともあるし、無意識に神経を張り詰めていたのかもしれないのだろうと。それがいつからか、背中や首、腰、太腿、果ては尻や股間にまで。普段なら触られないであろう部分に、確かな感触があるのだ。振り向いても見えず、腕を伸ばしても触れないのに、まるで蛇のように首や身体に纏わりついてくる。
それが日毎に回数が増え、場所も選ばなくなっていく。

いや、それだけならまだしも、

「………っ、ぅっ……くっ……」

日中にも関わらず灯りのないアパートの一室。全ての出入り口は施錠され、更に外界との繋がりを絶とうと夏樹は頭から布団を被っている。
が、足りない。いくら鍵をかけようと、どこに隠れようと、じっとこっちを見ている誰かの視線を感
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