真夜中サーカス

最近、よく夢を見るんですよ。
普段はあんまり見ないんですけどね、けど連日同じような夢ばっかり。

夢の中で、何故か私は暗い部屋の中にいるんです。
暗いっていっても完全に真っ暗闇じゃなくて、ちょうど照明の落ちた映画館みたいな。
手元ぐらいは見える薄暗さの中で、暖かくも寒くもなく、気付いたらフカフカの座席に座っています。
それも一番前の席に一人だけ。
横にも後ろにもズラーッと座席は並んでるのに、座ってるのは私しかいません。
最初は広い会場を独り占めしてる気になるんですけど、だんだん一人でいるのが不安になってきて。
まぁちょっと待ってれば他の人も来るだろうと考えます。
すると急にブザーが鳴って、明るい女性の声でアナウンスが流れました。
アナウンスは、

「まもなく開演の時刻となります。最高に怖くて最高に気持ちいい一夜を、どうぞお楽しみください」

と意味不明なものでした。
でももう一回見渡しても、観客は私一人だけなんですよ。
それでなんとなく居心地が悪くなるんですが、このときの私は自分の夢がどんなものを見せるか知りたくなってしょうがありませんでした。
変ですよね? 
アナウンスも変なんですけど、その時の私は自分が夢の中にいるって認識があるんです。
だからどんなことが起きても現実には関係ないし、いざ本当に怖い思いをすれば目を覚ませばいいやって思いながら、むしろ怖がらせるものならやってみろって気持ちすらありました。
それからまもなく、急に目の前が明るくなりました。
映画館のスクリーンだと思っていたのが幕だったみたいで、するすると上がる垂れ布の向こうは明るく照らされた舞台です。

「レディース、アーンド、ジェントルマーン!」

スポットライトの中ではピエロが両手を広げながら声を張り上げていました。
まるでサーカスとかの開演挨拶みたいでしたが、夢の中だからか、そのピエロも普通ではなくて。
まず見たこともない女性のピエロでした。
派手な化粧や衣装は道化師のそれなのに、所々際どく素肌が見えたり、身体のラインがぴっちり強調するタイツを着てるもんですから、なんだか見てるだけで酷くいやらしい気分になります。

「真夜中のサーカスによう
#12316;こそぉ
#12316;っ!七日七晩、毎夜一演目だけの特別なサーカス!務めるのはお馴染みボギーボギーのわたしことクラウぅぅンクラウンんん!!」

どんどんパフパフ、といった演出と愉快な音楽の中、くるくる回ったり、ピョンピョン跳ねたり。
ピエロらしい身振り手振りで自己紹介をしながら、最後にこれまた大仰な仕草でお辞儀をしました。
膝を少し曲げながら、片手を豊かな胸元に、もう片方を横に伸ばして、

「それでは今宵も貴方の、貴方のためだけのショーをご覧ください」

そして顔を上げます。
この時、私は確かにピエロと目が会いました。
観客は他にいない状況だからしょうがないかもしれないんですけど。
でもピエロは私以外無人の観客席を気にした様子もなく、むしろ最初から私だけしか眼中に無いようにじっと見つめてくるんです。
道化師の諧謔もおふざけも消して、心の奥底まで入り込むような怪しい視線で、

「それでは開
#12316;演
#12316;ん!」

それも一瞬、またピエロがくるりと周ります。
私はもうこの時から目が離せなくなっていました。
あの不思議な目線は勿論のこと。
内心はピエロが何をするのかという不安や、道化らしい動きでしたが、頻繁に腰をくねったり身体に手を這わせながら流し目でこちらを見たり。
場違いだとは思いましたが、扇情的な仕草に股間がじんじんするほど興奮していました。

「本日見ていただくのは、こちら!」

何が起きるかドキドキする私をよそに、ピエロが片手を舞台袖に向けると、ポーンと身長ほどの大きなボールが跳ねてきました。
それが続けて2個、3個と。

「大玉乗り!」

それらを器用にキャッチして、余興とばかりにジャグリングなんてし始めます。
勿論手では到底収まりきらないので、腕をつかったり足で蹴ったり肩で押し退けたり。
それだけでも喝采ものなんですが、ピエロはひとしきりジャグリングを終えて、またくるりと一周。

「無論、ただの球乗りなんてつまらない!ここは観客席の方にもお手伝いしていただきましょう!」

ピエロはピョンと嬉しそうに跳ねてましたが、聞いた私はそれどころじゃありません。
何しろ観客は私しかいないのですから、このままでは舞台の上に連れて行かれてしまう。
でもピエロは勝手に舞台を降りてきて、あれよあれよと戸惑う私の手を取って無理やり立たせました。
その時、しょうがないかもしれませんが思いっきり抱き着くような形でピエロと密着してしまい。
甘い華のような香りに、ドキリとしたのを覚えてます。

「…さぁさ、舞
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