私には好きな人がいる。
大きくて、暖かくて、ちょっとだけ頑固で、いつも私とお姉ちゃんを見守ってくれる優しい人。
他の人からは神父様って呼ばれてて、お祈りとかお行儀に厳しいけど、いいことをしたらちゃんと褒めて頭を撫でてくれる。
多分お父さんがいればこんな人なのかな。
でも私にはお姉ちゃんしかいなかったからよく分からないや。
神父様と最初に出会ったのは、寒い街の中。
あの時の私はお姉ちゃんと二人で、路地裏に住んでた。
最初は私達みたいな、親のいない子供が沢山いた教会にいたんだけど、色々あって逃げてきちゃった。
だってあそこの大人達はすぐ怒って怖いし、大きくなかった子達は突然居なくなっちゃうから、きっと私達も売られちゃうんだって皆噂してた。
特にお姉ちゃんは綺麗だから、多分あそこにいたら良くないことになってたと思う。
だから今でも逃げて良かったと思ってるんだけど、その後がちょっと大変だった。
子供が二人逃げ出したところで助けてくれる人なんかいないし、もしかしたら教会に連れ戻されるかもしれないから私達も助けなんて呼べなかった。
しょうがないから狭くて暗い路地裏に棲みながら、他の人からご飯を分けてもらったり、ゴミ箱を漁ったり、お店から盗んだりして。
もちろん、良くないことだって分かってたけど
でもお姉ちゃんに酷いことして欲しくなくて、お姉ちゃんも私に酷いことされて欲しくなかったから。
だから結局二人でお店の物を盗んでは売ったり、食べたりして生きてくことにしたの。
お姉ちゃんがお店の人に話しかけて、その間に私がこっそり裏に回ったり。
たまにその逆だったり。
最初の方は結構上手くいってた。
元々お姉ちゃんは綺麗だったし、私は小さくて足が早かったから。
……お姉ちゃん足遅いから逆はあんまり上手く行かなかったけど……。
でも何度もやってるうちに顔を覚えられちゃったみたい。
罠を仕掛けられたり、怖い憲兵に待ち伏せされてたり、おまけに他のグループにも邪魔されて上手に盗れなくなっていった。
私達のせいで縄張りがなんとかかんとか。
そのうちいつも寝ていた場所からも追い出されちゃって、しょうがないから別の場所を探さなきゃいけなくなったんだけど、でも他にいい場所なんてなかったから。
結局冷たい風が通り抜ける路上で二人一緒に、拾った毛布で寝ることになったの。
あの時、お姉ちゃんはずっと大丈夫、大丈夫だからって言ってたけど、私は死んじゃうのかなぁなんて思ってた。
お腹はペコペコで力も入んないし、寒くて身体も動かないし。
やっぱり教会にいたほうが良かったのかなー、なんて考えてたらだんだん眠くなってきて、そしたらいきなりふわーって暖かくなったの。
やっぱり死んじゃったのかなぁとか思って目を開けたら、知らない男の人がお姉ちゃんと私を抱き締めてて。
天使様かな?って思ったんだけど、服は黒いし羽もないしお姉ちゃんもビックリしてたから違うんだろうなって考えてたら、
もう大丈夫
って優しい声で言ってくれて。
今考えると変なんだけど、あの時はそれが凄く安心出来て、そのまま寝ちゃった。
それで気付いたら知らない家のベッドの上だったの。
なんでここにいるか分かんなくて、部屋の飾り付けとかが前の教会と同じだったから、てっきり連れ戻されたんじゃないかって思った。
お姉ちゃんもそうだったみたい。
一緒にどうやって逃げるか考えてたら、知らない男の人が持ってきたシチューの匂いを嗅いだら動けなくなっちゃった。
男の人は食べていいよ、って言うけど知らない人の前だし怖くてじっとしてるんだけど、お腹はきゅうきゅう鳴るから恥ずかしかった。
男の人は困った顔してて、それからシチューを一口だけ食べて、そのうち部屋から出ていった。
それで安心して、食べても大丈夫ってわかると私もお姉ちゃんもすぐ食べた。
久しぶりの温かい、何も気にしなくていいご飯。
今思うと、凄い勢いで食べてたから神父様に見られなくて良かったな。
それでシチュー全部食べちゃって、今度こそ本当に逃げなきゃって思ってたんだけどお腹一杯になったら眠くなって。
起きたときはまだ暗かったからそんなに寝てないって思ったんだけど、後で丸二日寝てたって聞いて驚いた。
でも目が覚めてもお姉ちゃんはむにゃむにゃしながらちゃんと隣にいて、暖かい毛布のなかにいても怒鳴られることもなくて、知らない男の人はまた温かい料理を持ってきてくれた。
持ってきて、一口だけ食べて部屋を出て、私達が食べ始める。
そんな日が何日も続いて、男の人が身体を拭く布とお湯の入ったタライを持ってきたとき、お姉ちゃんがなんでこんなに良くしてくれるですか、って聞いたの。
だってお姉ちゃんも私も分からなかったから。
私達にはお父さんもお母さんもいないし、助けてくれる
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