後編

夢を見ていた。
場所は――いつだったかの公園で、今日も視界を覆うような激しい雨が降っていた。僕は東屋の中で、何をするでもなくぼんやりと眺めている。

ぴちゃ、ぴちゃ・・・・・・、と庇から水滴が落ちる。
ざあああ、と雨の音。それ以外何も聞こえない。
ぴちゃ、ぴちゃ・・・・・・。身じろぎする。ぴちゃ、ぴちゃ・・・・・・。雨垂れを食い入るように見つめる。ぴちゃ、ぴちゃ・・・・・・。あまりの気持ち良さに、ほうと熱い吐息が漏れ――え、気持ちいい・・・・・・?

「――――って!」
僕は飛び起きて、慌てて布団を剥ぎ取った。そこには、

「むぁ・・・・・・、くちゅ、あ、もふ起きらんでふか。ぇろ・・・・・・、栄、おふぁようございまふ」
つい先日取り憑いてきた傘の妖怪が、僕の股間に顔をうずめていた。
無邪気な顔に、あどけない所作。およそ肉棒をしゃぶるなどという行為からは縁遠く見える存在。だが彼女は、アイスキャンディーでも頬張るかのように僕の朝勃ちの味を堪能していた。

「ふ、笛菜・・・・・・っ、だ、だ、ダメだって、朝から、そん、な・・・・・・、ぅぁぁああっ」
「だってぇ、仕方なひらないふぇすか・・・・・・。ここのとほろ毎日、大雨でからふぁすごく疼くのに、こぉんなバキバキになったおひんちん見せられひぇ・・・・・・、我慢なんてできませんよぉ・・・・・・♪」
れろぉぉ、といやらしく笛菜が舌を這わせるたび、ふわふわとした多幸感が僕を包んだ。金切り声をあげたくなるくらい気持ち良かった。

外を見れば、夢の中と同じくらいの雨が降っていた。笛菜曰く、彼女にとって雨の日は発情期なのだと。
梅雨明けまではまだ当分だ。連日この調子で、果たして身体が保つのだろうかと不安になるがかといって誘惑には抗えない。
初めは流されまいと臨んでも、いつも気がつけば笛菜の童女の部分に気を許し、娼婦の側面にほだされてしまう。笛菜が与えてくれる快楽に、溺れてしまっている。

このままじゃいけない。このままじゃ駄目になる。
そうだ、僕も笛菜も・・・・・・、このままじゃよくないんだ。

「笛菜・・・・・・、聞いてくれないか」
「いやでふ」
ばっさりと斬り捨てられた。話し合うことに価値などないと。
僕が愕然としていると、それに気付いたのか笛菜は肉棒を咥えながら妖艶な笑みを形作った。

「んふ・・・・・・、栄が何を言いたいか、わかってますよ。だって栄ですもの。栄のことならわたしは、何だって知ってるんです」
笛菜が含み笑いをするたびに、口腔内の陰茎がぴくぴくと跳ねる。
「でも駄目です、わたしは栄がだらしなくよがっている声が聞きたいんです。良識とか節制とか、そんなお為ごかしは必要ありません。栄はどうせ悪い子なんですから・・・・・・、大人しくわたしを性欲の捌け口にしていればいいんです♪」

小さい口の何処にそんな、と思うほど深く飲みこまれる。柔らかい笛菜の内頬の肉が、僕の亀頭の形に歪むのが見える。
どうしようもなく――、征服感が満たされる光景だった。

「あ・・・・・・っ、ぁ、く、ふ、ふぇ・・・・・・、なァァ・・・・・・ッ」
くちゅくちゅと水音が鳴るたび、反骨心とか抗議する気持ちとかが消えていく。まるで笛菜の甘い唾液に咀嚼され、消化されるような――――
このまま身も心も委ねてしまいたい。どうして耐えなければならないんだ。
我慢の琴線を超えついには僕が完全に堕ちかけた、その時だった――

『ごめんくださーい、大家ですけど。前原くん、いるかしらー?』

こんこん、というノックの音に僕は心臓が止まりかけた。
ぱっと見ると、笛菜が見当たらない。
いやいた。どんな早業か――いつの間にか元来の黄緑の傘に戻って下駄箱に立てかかっていた。

「は、はいいます! いま出ます、ちょっと待ってください・・・・・・」
自分でもびっくりするくらい素早く身なりを整える。玄関を開けると、大家さんが申し訳なさそうに立っていた。

「ごめんなさいね、こんな朝早くに。まだ寝てたでしょ?」
「は、はい・・・・・・。それで、どういった用件で・・・・・・」
僕が訊くと、大家さんはそれがね――、と渋るように言った。

「前原くんの部屋から、女の子の声がするって」
ごくり――、と生唾を飲んだ。
「そんな苦情があったのよ。おかしな話よねぇ。まあ・・・・・・、私は前原くんの真面目さは知ってるけど、一応・・・・・・、男子寮だし、ね」
ちらと横目で見やる。笛菜は傘のまま大人しく沈黙を保っている。

もし・・・・・・。もしも、だ。
ここで笛菜が正体を現し、全てぶちまけてしまったら――――ありえない仮定が、頭の中でほとばしる。時に何もかもをぶち壊してしまいたくなるような、誰の得にもならない――そんな妄想。
本当に僕は――どうしてしまったのだろう。

「なに
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