こんな危険なレスカティエにいられるか!俺は部屋に篭もる!

『首都南大通りに、魔物が進入! 応援を、至急応援を頼む!』
『最終防衛線突破されました! このままじゃ城内に――』
『たす・・・・・・、助けてくれ! うわああああ!!』
『ああ、大いなる主神よ。わたくしたちをお守りください・・・・・・』

魔王第四王女デルエラがレスカティエを攻め落としたその日、言うまでもなく国中は蜂の巣をひっくり返したようにパニックを極めた。人々の悲鳴と怒号と叫喚が、草木も眠る丑三つ時を支配した。

だがその混乱の中で唯一、静謐と言ってすらよい落ち着いた空間があった。
その一室の中央、椅子に深く腰かけている男は呟いた。物憂げで、どこか余所事な意思を感じさせる声だった。

「この国も、もうお終いか」

頬杖をつきながら溜め息を吐く。
今まさに祖国が異形のものたちの侵略を受けているというのに、そこには怒りや焦りの色はまったく見えず、ただただ情勢を俯瞰するように見守っている。

男の名前はロナルド=グランツ。
二十代前半という異例の早さにして王室付きの宮廷魔術師という最高の階位を勝ち取った天才魔術師である。もっとも――その数年後に彼以上のスピードで昇進した少女が現れ、ロナルドとしては不満を持っているのだが。

とはいえ彼の才能が偽物ということにはならない。勇者産出大国であるレスカティエにおいても、こと魔術部門に限れば間違いなく五指に入る大魔導士だ。
本来ならこの火急の事態、先陣を切って対処に当たるべき立場だ。

だが、彼は動かなかった。

「冗談じゃない。泥船と一緒に沈むのはごめんだ」

この10平米にも満たない隠し部屋は、彼が魔術により巧妙に隠蔽した緊急時の研究室だ。城内の一見なんの変哲もない通路の一角に、七重の感覚誤認と三重のパズル式錠前の扉をしつらえ、更に十三階層にも及ぶトラップだらけの術式迷宮を越えてようやく到達することができる。
そしてこの部屋の存在は、ロナルド以外ひとりとして知らない。

「誰だろうが・・・・・・たとえあの忌々しいミルティエの小娘だろうが、この場所に辿り着くのは――断言する。不可能だ」

絶対の自信を顕わにしつつ、ロナルドは備蓄の食料を確認した。
五日ぶん――といったところだろうか。その間ここで籠城してやり過ごし、ほとぼりが冷めたのを見計らって他国にでも落ち延びるか。
ロナルドの思考はすでに目下起きている惨状ではなく、どうやって新しく自分を売りこむかに向かっていた。

「それにしても――」

ふと、耳に意識を割く。
光も音も届かぬ地下深くであっても、ロナルドが街中に放った『虫』によって情勢は手に取るように知ることができた。

『ちくしょう、放せこの魔物め! お前たちなんかに――て、うわっ! ズボンが・・・・・・、な、何をするやめろ!』
『わ〜た〜し〜の〜旦那さま〜♪ よりどりみどりで困っちゃうわ〜♪』
『カイル、カイルぅー? 何処にいるの。一緒に愛し合いましょうよぉー?』

「魔物ってやつは、男とヤることしか頭の中にないのか?」
これだから女という生き物は――と、偏見丸出しの憤懣をロナルドは顕わにする。
思えば研究ひと筋で、浮いた話など一度もなかった。魔術の腕前だけがアイデンティティだった。

(その結果が、俺の半分しか生きてないガキからの嘲弄だ)
追い抜かれた瞬間の、あの胆が煮えるような屈辱を今も覚えている。おかげで今やロナルドは、もはや女性という存在そのものに憎しみを抱きさえするほどだった。

『よ、よせ! 僕は、こんな、ふしだらな・・・・・・、うああああっ!?』
『私の首を落とすとは・・・・・・。流石レスカティエ、骨がある。だが残念、ますます貴様と交わりたくなったぞ♪』
『ああ、大いなる堕落神よ。わたくしたちの激しい愛の営みを、どうか見守っていてください!』

げんなりしながらロナルドは、『虫』の端末を操作して回線を次々切り替えていく。だがすでに大勢は決したようで、魔物たちはすっかりお楽しみタイムに突入していた。
「くそ、どのチャンネルに繋げてもセックスしか映らねえ・・・・・・」

『あは♪ あんなに嫌がってたのに、もう自分から腰振っちゃって。あ、いいよ・・・・・・』
『う、ぅ・・・・・・、もうだめ、だ、射精る・・・・・・っ』
『そらそらどうしたぁ? 魔物娘なんかに絶対負けないんじゃなかったのか!』
「ほぉ〜、こんな地下深くに、こんな部屋が隠されてあるとはのぉ」
『カイル、見つけたぁ。もう絶対放さないよぉ♪』

「だァーっ! 至るところで盛りやがって。猿か、こいつらはッ」
ほとんど夢中になりながら、ロナルドは端末のボタンを乱打していた。こうなったら、いっそ一度切断して――

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、え?
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