ソラノキズアト

 物乞いをしていた、ある日のことだった。
 黒い翼をもった少女が、僕のいる街に現れた。
 彼女はいつも通り、凄まじい速さで僕の目の前を通り過ぎた後、十分もしないうちに、両足に抱えられるだけの食料を持って飛び去って行った。彼女は物盗りだったようだ。彼女はこの日味を占めたのか、この日以降何度も現れることになった。
 無論、物乞いである僕や、物取りである彼女を歓迎するものなど誰もいない。僕が物乞いをすれば街の人達は僕を力いっぱい殴りつけ、彼女が来るたび、彼女に石が投げつけられた。
 しかし、彼女は手馴れているのか、石に当たることなく飛び続ける。黒い翼をはためかせ、体を翻しながら飛ぶその姿には、どこか美しささえ覚え、つい見とれてしまうほどであった。
 そう、ただ殴られるだけの無力な僕とは違う、彼女に。

 そういえば、聞いたことがある。何故街の人達が彼女に石を投げるのかを。
 ブラックハーピー。
 黒い翼をもつ彼女たちは、時折人里を襲っては、食料や宝石を奪い去っていく、空賊だということを。
 しかし、僕は一緒になって石を投げることができなかった。街から食料や宝石を奪い去っていくとはいえ、彼女たちにとって生きるためには仕方のないことなのだろう。生きるための手段を奪われるのはあまりにも残酷だ。それに、僕とも重なっている。そう考えた僕は、彼女をかばって身を投げ出してしまう。
 当然のことながら石はこちらに向かってきて、僕の額に命中した。額から出るおびただしい量の血。その後も石を浴び続け、頬や体に傷が増えていく。僕が意識を手放す前に見た光景は、彼女は僕に構わず、獲物を目指して飛び去っていく姿だった。

 その一件からどのくらいたったのだろう。目を覚ませば、僕は街外れの荒野にいた。どうやら街から放り出されたらしい。もう二度とあの街には戻れないだろう。
 戻る場所も行くあても無い。こうなってしまってはもう、絶望だけだ。
 そんな折、目の前から黒い翼の彼女が現れた。
 彼女とすれ違う時、突然宙に浮いたかと思うと、だんだん高度があがっていき、僕の意識が遠のいていく。そして、遠のいていく意識には勝てず、瞬く間に僕は意識を手放してしまった。

 目が覚めたら、そこは岩壁に囲まれていた場所であった。辺りには何故か、食料が散乱している。
――ここは、どこだ?
 僕が抱いた疑問を口にしようとしたその時のことだった。
「ここは、私たちの巣の中」
 淡々とした口調で、目の前にいた黒い翼の彼女は答える。恐らく、僕をここに連れてきた張本人だろう。
 次に、彼女が質問をする。
「どうして、私をかばったの?」
 彼女の口調は、剃刀の刃のような冷たさと鋭さを感じさせる。
「石を投げられるのを見ていると、どうしても堪えられなかったんだ。君は、生きるために盗みを働いているだろうから」
 僕は正直な思いを彼女にぶつける。これまで冷たかった彼女の表情が緩んだ気がした。
「馬鹿。そこまでして見ず知らずの私を助けようとするなんて」
 そして、どうしても聞いておきたかったことを、僕は彼女に聞いた。
「どうして僕をここに連れてきた?」
「あなたと、結ばれるため」
 それは言わずもがなだったのだろう、魔物の彼女からすれば。一点の澱みもなく、彼女は答える。僕のことを憐れんでいる様子など全く見えない。
「本当に、僕でいいの?」
 ここに連れ去ってきた彼女は、こちらから目を逸らし、何も答えない。
「僕なんかで、いいの? だって僕は物乞いで、街を追い出されて、何も持ってないし……」
 もう一度問いただすと、ようやく彼女がこちらに振り返る。その時の彼女から表情を読み取るのは難しかったけれども、何かしらの決意が読み取れた。
「ええ。私は、あなたと結ばれるためにあなたを連れてきた」
 ようやく彼女が答えてくれた。
「どうして、僕なんだ?」
「……その傷。私をかばってくれた」
 額の傷を翼で指さして、彼女は答える。これは彼女のために作った傷だ。
「だから、次は私があなたを幸せにする」
 この一言で、僕はもう心を決めた。
「僕の名前はもうない。だけど、スカーと名乗るよ。君の名前は……?」
「私は……シエル」
 お互いに名乗りあった後、シエルは突如服を脱ぎ、生まれたままの姿になった後、股をいじり始める。なんて恥ずかしい姿を晒しているんだ。僕が言おうとした瞬間、
「だって私たちはもう夫婦でしょう?」
と平然と答える。
 そのあたりから、甘美なにおいがしてきたのであった。
 白い肌と黒い翼のコントラスト。
 胸は平坦なのは少し残念ではあるが、引き締まっていて均整のとれた身体。
 何だろう、見ているとすごくムラムラする。
「ねえ、家族、作ろう?」
 夫婦――それも新婚の魔物の夫婦がすることと言えば、ひとつ。

「はっ
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33