「イーサン、入るわよ?」
ノックしてから、イーサンの部屋に入室するエリン。ドアを開けた彼女の目に入ったのは、ベッドから懸命に起き上がろうとするイーサンの姿。しかし、彼の体から突如力が抜け、ベッドに倒れこんでしまう。
「くそっ、ダメか……」
めげずに身体に鞭を打ち、イーサンはもう一度挑戦する。しかし、彼が勢いよくベッドに倒れかけたところを、彼女は慌てて抱きとめた。
「無理はダメよ。今は体力をつけないと」
「エリン姉……」
エリンは優しい微笑を浮かべるが、イーサンの表情は明るさを取り戻さない。
「調子はどうかしら?」
「ああ、だいぶ良くなったよ。ただ、ベッドから起き上がろうとするとちょっとしんどいんだ」
簡単な問診をしながら、エリンは再びベッドから起き上がろうとするイーサンを止める。
「そう気を落とさないで。少しずつ体調を整えていけばいいから」
「そう、だな……」
言葉の上では納得するものの、彼の表情には未だ影が差している。
「妹さんのことも大切だと思うけど、今はあなた自身のことを考えて。もしあなたが無理して倒れたら、妹さんも浮かばれないでしょう?」
「……」
イーサンは俯いて、言葉を返すことができない。
「ごめんなさい、変なこと言って。だけど、あなたはもうここの一員なの」
謝罪しつつ、エリンが無理をするイーサンを諭し始めた、その時だった。
「おねえちゃん、いるー?」
「あっ、呼ばれちゃった。ちょっと行ってくるね」
「……ああ」
扉の向こうから聞こえるミリアの声。イーサンと別れ、エリンは部屋の外へと出て行った。突然の出来事にイーサンは面食らいつつも、少し複雑な表情をしていた。
「ふぅ……」
扉を出るときに見たイーサンの表情を見たエリンは、心中穏やかではない様子。彼女の表情も、どこかしら沈んでいた。
「おねえちゃん!」
扉を開けると、そこにはミリアとスゥがいきなり飛びついてきた。二人の勢いを殺すことはできず、押し倒される形でエリンは倒れてしまう。
「ちょっと、どうしたの? ミリア、スゥ」
大慌ての二人に対し、起き上がりながら事情を聴くエリン。
「ノッコちゃんとメイセちゃんとナーシャちゃんがけんかしてるの」
「それで、あたいたちじゃ止められなくなって……」
わたわたとしながらも、事情を説明するミリアとスゥ。その話を、エリンは冷静に聞いていた。
「それで、私に……」
「ワタシがどうしたって?」
突如二人の背後から、喧嘩の当事者の一人であるナーシャが現れる。
「あら、ナーシャ」
「ナーシャちゃん!」
「あの二人は分からず屋だよ……。相手をするだけで肩が凝るし、腰も張る。人間だからって、悪い奴だって決めつけるのは間違っているのに……」
ナーシャはけだるそうに右肩を回し、左手で腰を叩きながらくどくどと愚痴る。どうやら、彼女だけは堪えられなくなって抜け出したようだ。
「それで、あいつは大丈夫なのか?」
ナーシャがエリンにイーサンの様子を問いただそうとした、その時だった。
「とりあえず、みてくる!」
「あっ! ミリア!」
スゥが慌てて止めようとするも、ミリアは飛び去って行った。
その頃、大広間では――残り二人の子ども――ノッコとメイセが、イーサンに関して議論していた。
「あいつの化けの皮、絶対にはがしてやる。どうせ人間なんて……ぶつぶつ」
呪詛のように、メイセはイーサンに対する恨み言をつぶやいていた。
「だけど、どうすれば……」
それに対し、ノッコは顔をひきつらせながらも、対策を考える。無論、イーサンを排除するための。
「ミリアを使えばいいんだ」
「ミリア? あいつ、そう賢くはないぞ?」
さも妙案を思いついたかのようにメイセはほくそ笑むが、ノッコはどこか腑に落ちぬといった表情をしていた。
「だからこそだよ。あけっぴろげだから何でも話してくれるさ」
「どーしたの?」
噂をすれば何とやら。大広間にミリアが戻ってきた。ちょうどいいところに、と二人は悪い笑みを浮かべる。
「ミリア、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
「あのひとのこと?」
「ああ、あいつのことだ」
ご機嫌なミリアに対し、不機嫌丸出しの顔で、メイセはミリアに迫る。
「あのひと、ぜーんぜんわるいひとじゃないよ」
そんなメイセのことなど全く意に介さず、あっけらかんと言い放ってしまうミリア。しかし、二人の表情から疑いの色は消えないどころか、よけいにその色を濃くしてしまった。
「うたがってる? あってちゃんとおはなしすれば、わかるとおもうけど……」
「いちいちうるさいんだよ、おまえは」
意地でも話すまいと、強硬な態度を崩さないメイセはミリアに文句を投げつける。それに同調するかのように、ノッコは無言でミリアの頭にげんこつを食わせた。
「いたいよー
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