Chap.0 エリンの旅立ち

 迷宮を飛び出してから数日。荒涼とした山道を登る私の前に、とんでもない光景が繰り広げられていた。
 視線の先には、大小さまざまな六人の暴漢。そのさらに先には、二人のハーピー――もとい、セイレーンとサンダーバードが、互いに身を寄せ合っている。セイレーンはサンダーバードの後ろに隠れるようにして震えており、サンダーバードは男達を睨みつけていた。
「なぁ、姉ちゃん達。俺達と一緒にイイコトしねえか?」
「するもんか!」
 下卑た顔をして言い寄る男達。サンダーバードが帯電しながら強く拒絶すると、男達は身じろぎする。しかし、一人だけ、ゆっくりとした足取りで近寄る命知らずな男がいた。
「えへへ……そういう女こそ奴隷にしたいもんだ」
「……クソが!」
 下衆な表情をしていたのだろう、サンダーバードは放電を強める。
「ぎゃああああ! あひいいいいっ!」
 予想通り、サンダーバードの電撃を食らい、情けない声を上げ、倒れてしまう。
「チッ、コイツ……」
 反抗的な態度が気に食わなかったか、それぞれ得物を取り出す男達。セイレーンはさらに怯え、サンダーバードも身体に帯びる電気を強くしている。
 無性に腹が立ったので、私は彼女らの救援、と同時に男達を懲らしめるために向かった。
「穏やかじゃないわね。武器をちらつかせれば、彼女達がなびくと思って?」
「誰だてめえ!」
 挑発的な台詞を引っ提げて、男達の背後から迫ってみる。案の定、男達はこっちに振り返った。それも、眼に血を走らせて。
「通りすがりの旅人エキドナ……とでも言っておきましょうか?」
「エキドナ……? あっはっはっはっは!」
 私が名乗りを上げると、男達は一笑に付した。頭に来たが、ここは冷静になろう。
「エキドナってあれだろ? ダンジョンの奥で男を待ってる、あの行き遅れて婚期を逃す魔物だろ? かなり強いらしいけどよ、てめえがそのエキドナとは到底思えないな」
 私どころか、あろうことかエキドナそのものまで愚弄してきた。こうなったらもう、許すつもりなどない。
「言ってくれたわね。エキドナを代表して、お仕置きしてあげる」
 冷たい口調で言い放ち、私は変化を解く。肌は青白くなり、額には眼のような紋様が現れ、足は緑の鱗を持つ蛇のそれに変わった。
「へっ、ただのラミアじゃねえか」
「何がエキドナだ! ぶちのめして犯して放り出してやるぜ!」
 この男達、未だにわかっていない。私がエキドナだということを。随分となめられたものだ。
 こんな相手に槍を使うと、穢れて使い物にならなくなる――そう考えた私は、徒手空拳での戦いを挑んだ。
「あんた達相手に槍を使うまでもないわ。それどころか、右腕だけで十分。やれるものなら、やってみなさい」
「やってやるよ、うおおおお!」
 安い挑発に簡単に乗った暴漢が、一斉に私に手向かってきた。
 最も小柄な男が逆手に持った短剣を振り下ろしてくるが、左に重心を傾けてかわす。短剣が空を斬り、よろけたところに右肘で力いっぱい右脇腹を打つ。
 そいつを右に吹っ飛ばすと、棍棒を手にした男が手向かう。男は力いっぱいぶん殴ろうと棍棒を振りかざすが、姿勢を低く保ったまま急接近してがら空きの腹を右掌で打ち、うずくまったところに顔面を再度右掌で打った。
 痛みにもんどりうつ棍棒の男をよそに、三日月刀を手にした男が襲い掛かる。刀を左から右に薙いできたが姿勢を低くしてかわし、がら空きの腹に右手で掌底を浴びせ、手甲鈎を手にした後ろの男の方へと吹っ飛ばすと、後ろの男もろとも倒れてしまった。
 次々となぎ倒される男達を見て、リーダー格の男が、足を竦ませていた。
「さてと、あとはあんただけよ?」
「……仲間やっといてただで済むと思うなよ! おらあっ!」
 破れかぶれになって、リーダー格の男は手にした斧を振りかざしてこちらに走ってくる。振り下ろされる前に、私はがら空きの腹に右手の掌底を繰り出した。
「ぐおっ!?」
 リーダー格がうずくまると、そのまま尻尾の先端で相手を打ち据え、吹っ飛ばす。
「くそっ……」
 歴然とした実力差を見せつけられても、リーダー格は立ち上がり、向かってくる。どうやら、根性と諦めの悪さだけは一流らしい。これ以上手を出しても無駄だと言わんばかりに、睨みを利かせた。
「……まだやるの?」
「ひぃっ! この女、只者じゃねえぞ! ひやあああ!」
 リーダー格の男が叫びながら逃げると、それに追従してほかの男達も逃げる。恐怖からか足がもつれ、転ぶ男達も数人。そして最初に電撃を食らった男は置いてけぼり。非常に情けない様相をさらしており、追いかける気にもなれなかった。
「なんとか追い払ったわね……大丈夫だった?」
 サンダーバードとセイレーンの二人に声をかける。危害を加えられる前に救出したものの、まだ恐怖からは解放されて
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