ある日の平和な昼下がり。
イーサンは自室で休んでおり、残りの面々が孤児院の玄関ホールで遊んでいた。エリンホームでは今日もゆったりとした時間が流れる……と思いきや、その平穏を破る出来事が。
外の方から窓を割られる音が聞こえ、直後に男のものと思われる野太い悲鳴が聞こえた。
「ひっ!? うわああん!」
侵入に失敗したとはいえ、襲撃者の存在が五人娘を不安に陥れる。特に幼いミリアは泣き叫び、スゥも慌てふためき、浮足立っていた。ノッコとメイセは殺気立つ一方で、ナーシャが幼い二人をなだめていた。
「窓からは無理か。こうなったら正面突破だ!」
「おう!」
窓の向こうから男達の話し声が聞こえるとともに、玄関の方から扉を破ろうとする音が響く。その音が大きくなるにつれ、浮足立つ五人娘はさらにパニックに陥ってしまう。
そして――ひときわ大きな音が鳴り響き、防衛線である扉が破壊されてしまう。破壊された扉の向こう側から現れたのは、ナイフやらカットラスやらで武装している男達。先頭に立っているのは金髪と痩躯、そして冷徹な眼差しが特徴的な男だった。
「聞いた通りだ、魔物のガキどもがいっぱいいるな」
「ぐへへ……俺はあいつを殺すぜぇ」
男達は品定めするように、五人娘を見る。一方、五人娘のうち、ノッコ、ナーシャ、メイセの三人は敵意丸出しで男達を見つめる。その後ろに、ミリアとスゥが震えながら隠れていた。
「予定通り、魔物は皆殺しにするぞ。人間がいた場合は……聞いてねえな」
「ひぐっ!?」
皆殺しという言葉を聞き、ミリアとスゥの震えがさらに激しくなる。ノッコ達三人は、ただただ男達を睨みつけるしかできない。
「このウォルヴィン盗賊団にかかれば、魔物のガキを殺すなんて訳もねえ。一人残らずぶっ殺してやる! そして戦利品をたんまり、いただくぜ! このウォルヴィンについて来い!」
「おー!」
先頭に立つ頭目ウォルヴィンが指示を出すと、盗賊達は大声を上げて五人娘に走り寄った。五人娘は逃げようと試みたが、メイセがあっさりと捕まってしまった。
「さてと、お前からだ……!」
振りかざされた刃を見て、メイセは死の恐怖におびえて目を瞑る。そして、容赦なく彼女に刃が振り下ろされた。しかし彼女に刃は届かず、甲高い金属音が鳴り響いた。
三秒ほど静寂が支配した後、メイセが瞳を開くと、左腕に籠手を着けた丸腰のイーサンの姿が。彼はメイセと盗賊との間に割って入り、左腕ひとつで振り下ろされた刃を受け止めていた。
「おまえ……!?」
「イーサンだー! イーサンがきてくれたー!」
メイセが叫ぶと、ミリアとスゥは歓声を上げ、メイセ当人とノッコ、そして盗賊達は驚愕の表情を浮かべている。ナーシャは落ち着きを取り戻し、黙然と微笑を浮かべていた。
「外の方があまりにも騒がしかったからな。駆けつけてみたら、敵襲か」
「驚いたな。人間のガキがいるとは。まあいい、魔物に味方するならてめえも殺してやる。やれ!」
ウォルヴィンが指示を出すと、盗賊達は標的をイーサンに変え、一斉にかかる。そのイーサンはというと、その状況にもうろたえることなく、左手で刃を受け止めながら、空いた右手で目の前の盗賊に強烈なアッパーカットを浴びせた。盗賊はよろけながら後方に倒れてしまう。その瞬間、盗賊達の間にどよめきが広がった。
「さっきまでの余裕はどうした? 来るなら来い!」
にらみを利かせるイーサン。盗賊達は得物を構えるも、及び腰になっている。
「ええい、一人増えたくらいで何ビビッてんだ! さっさとやっちまえ!」
情けない姿をさらす部下に対し、ウォルヴィンは怒り心頭で命令を出す。イーサンの後ろでは、メイセとスゥが後退し、ナーシャがミリアとノッコに何か耳打ちをしていた。
「ナーシャ! ここは俺が抑える。みんなを連れて逃げるんだ」
五人の中で先頭に位置するナーシャに対し、イーサンは促す。ナーシャは耳打ちを中断し、イーサンの声に聞き入るも、反論しようとする。だが――
「イーサン、作戦が……」
「早く!」
イーサンに気圧されて、五人は振り返った。スゥはミリアの脚に掴まり、メイセはナーシャの背中に載せられる。五人はそのまま、エリンホームの奥へと逃げ出した。
「逃がすな、追え!」
盗賊達が逃げた五人を追おうとするも、狭い廊下にイーサンが立ちふさがり、先に進ませない。
「ここから先は通さない!」
「てめえに何ができる!」
一人ずつ相手にできる状況に持ち込んだイーサンに、盗賊達は一人ずつ向かっていく。一人目の振るうナイフを後ろに下がってかわし、がら空きの顎に右手でアッパーを叩きこむ。カットラスを振りかざした二人目に対し、イーサンは距離を詰め、得物を振り下ろされる前に腹に横蹴りを浴びせて吹っ飛ばした。三人目、四人目が同時に斬りかかっ
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録