サツキはジパング出身の祖父を持つ、クォーターの少年である。
年は十六を数えたばかり。性格には年齢相応の幼さが残っているものの人が好く評判は上々。顔立ちは中性的な細面。
弓の腕前は名人であった祖父譲りの百発百中であり、その祖父が故郷に帰った今、猟師として立派に独り立ちができている。
トレードマークはジパングの血を継ぐ真っ黒な髪と、白を基調としたお気に入りの狩衣装。
まだ小さな子供の頃にはジパングに滞在していた時期もあったため、好物は味噌汁という大の親日家だ。
そんなサツキに、最近になって妻ができた。
お相手は七つ年上の白蛇さんで、名前はミシロという。
器量よし、性格よし。才色兼備でオマケに料理も上手く、特に味噌汁が絶品。
つまるところ、サツキにとってこの上ない良妻である。ついでに言えばサツキの初恋の相手でもある。
でもちょっと、サツキは困っていたりする。
そもそもの話。二人の縁の始まりはジパングにいた幼少期から始まる。
ミシロはサツキの遠縁の親戚であり、異国の地で分からない事の多いサツキを非常に可愛がってくれた相手なのだ。
いつでも自分の面倒を見てくれる、とっても綺麗で優しいお姉ちゃん──もう幼心はメロメロキュ〜、であった。
だからジパングから帰る時には泣いた。大泣きをした。
一方でミシロの方も、サツキのことを大層気に入ってくれていたらしい。
別れ際にミシロは、元々赤い目を涙で更に赤くして、サツキにこう言った。
『大きくなったら、今度はお姉ちゃんがサツキくんの所に会いに行くから──』
そう涙ながらに約束して別れ、二人が立派に大きくなる程度の年月が経った後のこと。
ミシロはサツキに会いに来た。
突如ジパングからはるばる海を越え山を越えて、本当にサツキに会いに来てくれたのだ。
当然、サツキは喜んだ。
幼い頃の約束を守って、大好きだったお姉ちゃんが自分に会いに来てくれたのだから。
満面の笑みで自宅に迎えるサツキに、ミシロは目に浮かべた涙を指で拭いながらも、幸せそうな表情を浮かべて言った。
『嬉しいです……これで今日からミシロはサツキさんの妻なんですね』
……妻? と、満面の笑みがそのまま固まった。
てっきり遊びに来たと思っていた相手が、なぜだか恭しい口調で自分の妻を名乗っている。
しかも祖父から許可を貰ってきている。直筆の手紙を持参している。あの何が書いてあるのか良く分からない、ジパング語の達筆で。
サツキは驚いた。
相手は初恋の人ではある。
しかし、超唐突に相手が妻。結婚どころか恋人ですらまだ考えたこともなかったのに。
いくらなんでも結婚は早いんじゃないかと慌てるサツキに、自分が妻ではお嫌でしょうかと涙を滲ませるミシロ。全然嫌っていうわけじゃないんだけど、と、またも泡を食うサツキ。
そんなこんな、すったもんだ。ミシロがそのまま家に居ついてしまったのが大体一月ほど前。
確かに、サツキには最近になって妻ができた。
器量よし、性格よし。才色兼備で料理も上手く、特に味噌汁が絶品。
ところがこの理想の姉さん女房……言ってしまえば“押しかけ女房”なのであった。
◇
時は夕刻、西の空の茜色が段々と薄暗くなっていく頃合。
今日も上々の調子であったサツキは、捕らえた獲物を手早く捌くと村でお金に換えて、自宅への帰路に就いていた。
サツキの家は村から歩いて半刻ほど、森の入り口からそう遠くない所にあるジパング式の家屋だ。海を渡って修行してきた職人に祖父が建ててもらった、小さくとも自慢の一軒家である。
しかしサツキは、愛しの我が家にたどり着いてもすぐに戸を開けることはしない。その場で立ち止まり、ふぅと息を吐く。
これが近頃のサツキの習慣だった。我が家に入るのに、いくらか心の準備が必要なのだ。
すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。
よし、準備オッケー。
意を決し、ガラガラと引き戸を開けて中に入る。
「ただいまー」
少し大きめの声で帰宅を知らせると、するすると廊下の奥から、一人の女性が現れた。
肩口や腕部が露出した白い小袖と、藤色をした丈の短い袴に、細い腰に結わえられた大きな帯。
ほっそりとした上半身に対照的な、太く長い蛇の下半身。
儚げな印象を与える、流れるような純白の長髪。白くキメ細やかな肌。
その整った顔立ちの中に輝く赤い瞳が、サツキを迎え入れるように優しく細められている。
「おかえりなさいませ、サツキさん……!」
透き通るような声に喜びの色を含ませて、その女性──ミシロはサツキに近寄ると、彼の背中に両腕を回した。
「あぅ……た、ただいま、ミシロさん……」
「はい、今日も一日お疲れ様でした……!」
身を硬くして直立しているサツキにお構いなく、ミシロはぎゅっと彼のことを抱きしめている。
胸に押し付けられる豊かで柔ら
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