とある真っ暗な空間の中で、それはそれは可愛い男の子が泣いていました。
というのも男の子は今、魔物娘のお姉さんに誘拐されている真っ最中なのです。
男の子の両親はいつもお仕事が忙しそうで、ちっとも男の子のことを構ってくれません。
あろうことか今日はみんなが家族で過ごすはずの主神祭の日なのに、男の子は今日も独りぼっちでお留守番をさせられていました。
──主神祭なんてだいっきらい。
寂しくて涙が出そうになるのをグッとこらえていた男の子。
余りの心細さに、主神祭にも失望と怒りと悲しみの感情をぶつけてしまいます。
そんな彼の元に、煙突から突然大柄なお姉さんが現れたのです。
『──イイ子で待っててくれたかい、私の坊や
#9825;』
お姉さんは見るからに魔物娘でした。
何せ浅黒い肌にギザギザの歯。曲がる大きな角。男の子を見て金色に光る眼。
脚はふわふわの毛が生えた羊さんのようで蹄があって、おまけに手は男の子の頭なんて簡単に掴めそうなぐらい大きくて、オマケに爪も長くて鋭くて。
だけど黒いサンタ服のような恰好は、冬だというのにあちこち肌が晒されていて、なんだかエッチ。
何よりおっぱいはプレゼント袋じゃないかってぐらいの大きさ。
──クラン……プス……!?
男の子はとっても怯えました。
そう、お姉さんは怖い怖い魔物娘『クランプス』。
主神祭を嫌う悪い子の元にやってきて、その子をさらってしまうといわれる悪魔です。
『おや? 私のことを知ってるだなんて光栄だね』
クランプスさんは男の子のことを見てニヤリと笑うと、背中に背負っていた空の大きな袋を下ろしました。
『それじゃあ私が何で来たのかも分かってるだろう? 坊やを迎えに来たのさ、私は
#9825;』
そしてあっという間に男の子を捕まえると、手足をサッとベルトで縛って袋の中に押し込めてしまったのです。
──やだぁ、はなしてぇ! 食べちゃやだぁ!
『食べるなんて心外だねぇ。こら、暴れたら危ないからジッとしてな。何も酷いことなんてしないんだから』
そう言ってクランプスさんは男の子のことをどこかに連れて行ってしまったのです。
──きっとぼくは食べられちゃうんだ。丸焼きとかにされちゃうんだ。
そう考えると怖くて恐ろしくて、ひっく、ぐすっと、涙をぽろぽろ。
男の子は詰め込まれてしまった袋の中でブルブルと震えています。
こんなことなら主神祭が嫌いだなんて言わなければ良かった。
でもお父さんもお母さんも、ぼくを一人で放っておくから……。
ぼくがワガママだったからいけないのかな?
でもだって、どうして一人がイヤなのがいけないの……。
男の子は泣きながらそんなことを思いました。
暫くすると、ドサッと男の子を入れた袋がどこかに降ろされました。
とうとうクランプスさんのお家に着いてしまったようです。
男の子が抵抗できずに泣きじゃくっていると、袋の口が開かれて光が漏れてきました。
「──さ、着いたよ。大人しくしてたかい?」
そう言って、男の子を誘拐したクランプスさんが袋の中を覗き込んできました。
見るからに怖そうだけれども、お顔はとってもお美人さん。
男の子はクランプスさんを見上げて、お願いだから食べないでと小さな声で呟きました。
「だから、食べやしないって最初に言っただろ? まあちょっと乱暴な真似はしちゃったからね、怖がらせてゴメンよ」
クランプスさんが爪の生えた大きな手を伸ばしました。
ひぃっ、と小さな悲鳴を上げる男の子の頭を、だけどその手は優しくいい子いい子と撫でつけます。
そして手足を縛っていたベルトを解いてから、ハンカチで涙や鼻水で汚れた男の子お顔を丁寧にフキフキ。
「……うん、これで綺麗になった!」
男の子はちょっとだけキョトンとした表情。
あ、もしかしてぼくを食べる前に汚れを取っただけかも。
再び男の子のお顔が曇ります。
「だーかーらー! 坊やを食べやしないってば! 例え悪い子だろうが食べやしないってのに、どうして坊やみたいなイイ子を食べるって言うんだい!」
クランプスさんはちょっとだけ頬を膨らませて、男の子の頭をわしゃわしゃしました。
──だって、ぼくイイ子じゃないもん……悪い子だもん……。
袋の中で考えていたことを思い出して、男の子はシュンとうなだれてしまいました。
きっとクランプスさんが来たのは、ぼくがワガママなことを考えた罰が当たったから。
男の子が途切れ途切れにそんな内容を口にすると、クランプスさんはそんなことは無いと反論します。
「何を言ってるのさ! 坊やはとってもイイ子だよ! せっかくのお祝いの日に両親が一緒にいてくれないってのに、それを必死になってガマンして……! 坊やのことを見つけてから私はずーっと見守ってきたけどね、坊やみたいに
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