その10 新たなる敵 

病院の窓から漏れる日の光に『魔物屋』店主フランクは煩わしい気分になり窓のカーテンを閉め日の光を遮った。
 部屋の中はきわめて風通しがよく、空気が淀まないよう一定時間窓を開け空気の入れ替えをしている。そのためか部屋は澄み切ったように清澄な空気が辺りを包み非常に快適だった。
 今フランクのいる病室には、今もまだベッドの上に長く眠り付く黒髪の若い男が静かに寝息を立てながら横になっている。黒髪の若い男は顔の所々に白いガーゼだらけで、まるでミイラの様な状態になっていた。
 まだ眠りから覚めることは無く、口から微かに呼吸をする様な音が聞こえておりそれ以外に変化は全くない。時折寝言の様に何かを怯えて言うことも何もかもフランクには全く分からなかった、うなされ長い性質の悪い悪夢でも見ているのだろうとフランクは思考する。
 (一体何の夢を見ているんだ…?)
 フランクがアレンを覗く瞳には、はるか遠くを見渡しフランクの知る限りのアレンの過去を頭の中で垣間見ていた。しかしそれに該当するような出来事は分からなかった。
 一週間前にフランクの旧友であるこの街の長ヨシュアから、約束の日に中々屋敷から戻ってこないアレンを出迎えに、自警団を引き連れ例のロッドケースト邸に赴き屋敷中を探索したと聞かされる。
ヨシュア率いる自警団達は屋敷内や外を探索していくうちに、屋敷の中庭の方からその前日行方不明になったセイレーン親子の無残な姿を発見し、屋敷の地下にて屋敷の主ロイ=ロッドケースト氏の地下研究室にて意識を失って眠る手負いのリザードマンの少女、その先に続く隠し階段から裏庭へと探索の範囲が広がりそこからアレンが大の字に倒れている姿が発見され急いで保護をした。
裏庭に広がっていたのは、何もなく土色が広がり続ける荒れ果てた終末を迎えた様な荒野の爪痕、そこには緑あふれる自然が広がり野生の動物だけでなく魔物達も生活していた、そこで一体何があったのかは定かではない。ただ確実に何か強大な力同士がぶつかり合い起こったように想像される。
彼らが驚かされたのはそれだけではなかった。屋敷の地下研究室には化け物に拉致された大量の行方不明者の遺体が発見され、どうやら何かの実験材料として扱われていたようだった。部屋に残された資料から『生と死に』ついて研究をしていたことを知り、ロッドケースト氏の研究レポートからあの例の化け物について書かれた生態資料まで発見される。  しかも研究室には量産化され水の入ったケースの中に眠る化け物が幾つも発見され直ちに処分し残った一体を研究班に引き渡した。
しかし屋敷の主であるロイ=ロッドケースト氏の姿は見つからず、地下の大きな広間にて彼だと思われる焼け焦げた真っ黒の灰になった遺体だけが見つかっている。
他にもすでに白骨化した二人の少女の死骸が発見され、一人は朽ち果てた使用人の服フリルのついた長いロングスカートを身に纏っており、もう一人はロッドケースト氏の娘であるエミリア嬢だと断定された。
「ふぅ…」
フランクはいつもと違う沈んだ面持ちでベッドに眠るアレンを見つめる。
アレンを見ているといつも思いだしてくる。
フランクは瞼を閉じて頭に次々に浮かんでは消えていく過去の記憶を思い出す。元々フランクは反魔物派一派が統括する地域に生まれ、そこで教会に仕える聖騎士として世の平穏を目指しながら日々を生きていた。
聖騎士としての生活は決して楽なものではなかった。毎日が死と隣り合わせの日々で、今日苦楽を共にすることとなる友となった仲間達は、その翌日に教会の敵『魔物』達との激しい交戦の中で殉死し、戦の中で荒廃した大地に溢れるほどの残された者達の涙が流しつくされていったことを思い出す。自身を生んでくれた親よりも先に死に、愛する者を残してそのまま帰らぬ人となってしまうことなど、フランクが過ごしていた環境ではそれがいとも当然の様に起こっていた、またそれが世の常であった。
それは教会や教会に属していた聖騎士のフランク達だけではなく、敵の『魔物』達も同様であった。彼らにも親や親しい友やまたは恋人もいたであろう、その中で彼らは自身の属する指導者と国のために自分を待ってくれる者達の戦ったのだ。
交戦中の真っただ中、当時フランクは教会が編成する聖騎士含む歩兵本隊の切り込み隊長として敵の部隊達と交戦、次々と敵の屈強な騎士デュラハン達や妖しげな魔術を使う魔女や魅了の能力を使い敵を攪乱させるサキュバスを退け、教会の各分隊達を先導し一気に勝利へと導くなど、フランクは実に優秀であった。
敵はフランクの名を戦場で聞けば大いに恐れ戦き戦意を喪失させていった。
それは当時のフランクには最高の栄誉だったように感じたことがあった。今にして思えば自分は一体何を考えていたのだろうか?何人もの関係のない人間達を巻き込んでいったあ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33