第三話 「謎」

目覚めると私の体は、さっきのアパート2階のフロアの廊下に横たわっていた。
ゆっくり起き上がろうとすると、体全体に酷い激痛が駆け巡っていく。これでは満足に体が動かない、肘で床に付いて思いっきり強引に体を起こしにいった。
「ん…ここは、どこだ?」
私は周囲を見る。私は腕時計を見る、時刻は朝の早朝なのにそれでもこの中はとても暗い、いや鉄格子のはめられた窓の外を見ると相変わらず濃い霧が翌日になってもしつこく立ち込めていた。私にとって気持ちのよい朝の目覚めじゃない、いやそもそもこの静丘町に時間は流れているのだろうか?
同じタイプの扉が壁にずっと続いている、201号とかかれている部屋の前に私は突っ立っている。アパートの二階のフロア、そうか悪夢から私は解放されたのか。
私の手には一日中付けたままの懐中電灯が握られている、しかし私の相棒として使っていたネイルハンマーが手元に無くなっている。私は丸腰のままずっとこのフロアで眠っていたことになる。
「…ラジオだ、ラジオは?」
私はズボンのポケットを手探る、するとすぐに小型ラジオが顔を出しラジオは沈黙したまま、まだ眠っているかのようにうんともすんとも言わない。
「ラジオは反応なし…近くにあの化け物達はいない」
私の頭の中にこの前の悪夢が鮮明に蘇ってくる。アパートが一気に化け物の巣くう楽園と化し、うじゃうじゃとお互いを押し合いながら、私めがけて我こそ先に集まっていく化け物どもを、そしてその中心に立ち化け物達を束ねていたあのピラミッド頭の人ならざる何か。
「はあぁ…恐ろしい、恐ろしい」
思わず口の中に詰め込もうとしていたものが少し溢れてしまった。私はまた頭の隅から溢れるように広がる恐怖の記憶を消すように振り払う。
「…これは何だ?」
いつの間にか私の手の中に何かが握られていた。手を開くとそこから303号のネームプレートが付いた鍵がでてきた。何という不思議な現象だ。
妻であるサキュバスの綾香が病で亡くなった後、私は静丘町から逃げるように去った。それはこの町に詰まっている妻との思い出が、私の胸の中を激しく締め付けていくのだ。そんな思いを抱きながら町にずっと住むのはとても苦しかった、今でもふとしたことで頭の中に鮮明に浮かぶ妻の美しい笑み、もうその微笑みを私は見ることができないのだ。
(これは私と綾香が住んでいた部屋の鍵…)
「鉄格子の扉が開いている!?」
昨日まで鉄格子の扉は固く閉ざされていた。一体昨日のうちに何があったのかは知らないが、これで道は開いた。
私は早速3階の階段を駆け上がった。
(あの部屋に一体何が待っているんだね?綾香…)

私は3階の綾香と住んでいた部屋303号室の前に立っている。3階のフロアもまた私以外に人の存在は確認できなかった。
(ザッ…ザァーザァー…)
ラジオはまた再び不快なノイズ音で警告をしている。周囲を見ると廊下にあの気味の悪い歪な形をした化け物が辺りを彷徨っていた。しかし、私の存在には全く気付いていない、ただもがき苦しむような鳴き声を発しているだけだった。
私は手に持つ部屋の鍵を鍵穴に差し込む。視線はあの徘徊している化け物に向けながら、注意深く静かに音を立てずに。
そして部屋の扉をあけると飛び込むように入り、そして扉を大きな音を立てて派手に閉め部屋の鍵を掛ける。部屋の鍵さえかければあの化け物は中に入ってこれまい、そんな根拠は何一つ存在しなかったが私は息をつき肩に力を抜く。
ラジオのノイズ音は無くなった。この部屋にあの化け物はいないらしい、いや綾香との思い出のこの部屋にあの汚らわしい化け物が存在してはならない。私と綾香の神聖な聖域に。
さっそく熱い扉の向こう側から忙しく歪な足をばたつかせ外を歩いてくる化け物の気配を感じる。そして扉の前に留まりもどかしそうにそこを行ったり来たりとまた徘徊し始める。
もしも存在しようならこの手で八つ裂きにするまでだ…。
私は思考を切り替え、目の前に溢れる思い出の中に足を踏み入れる。思い出はあの時のまま鮮明に蘇っていた、綺麗に靴が並ぶ玄関の先に広がる塵一つない小奇麗な茶色のフローリングの廊下。玄関先に可愛らしい刺繍が施されたカーペットの上に丁寧に揃えられたペアルックのスリッパ。
決して何もない綺麗さっぱりとした空間ではなかった。
仄かに薄暗い玄関で何故かそんな風に見えた。いや、薄暗くてもそれぐらい分かるほどの綺麗にされている。しかし、何故だろうか時間が止まっているかのような静けさが私を迎えているように感じる。
何か私の目に映る物はすべて置かれているように感じる。まるでゲームの中に配置されている背景と同じように。全く生活感が無い。
後ろの玄関の扉に広がる絶望に打ちのめされるあの悪夢の世界と全くかけ離れた空間が、この中にはあった。が、しかしこの世界さえも私
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