屋敷潜入 その9 降臨 上

それはまさしく大いなる邪神を降臨させるかのような儀式そのものだった。
ロイ=ロッドケーストは床に膝をつき、両手を大きく掲げ恍惚とした表情を浮かべる。それは大いなる邪神降臨のために祈りをささげているかのようだった。
無粋な侵入者がロイの忠実なる僕を倒し、こちらへと向かっていることは知ってもいなくても、ロイにとってはもうどうでもいいことだった。
「あぁ…私の芸術作品の中で最高傑作のお前を今解き放つ時がきたとは…」
ロイの瞳は熱に浮かされたかのようにその一点の先しかもう見ていない。
ロイの視線の先には、大きな直方体の大量の水が入ったケースがある。その浸された水の中に眠る大いなる悪魔を連想させるかのような容姿。恐ろしいはずが美しいとも思わせるようなその荘厳な姿。
おそらくこの姿が表へと出れば誰もがその荘厳なる姿に人は皆跪き畏れ戦くだろう。いや、戦かない者などいない、この絶対的な存在を前にして。
眠る邪神の口元から、小さな気泡がゆっくりと浮かんでは消えることを繰り返している。
あと少し、あと少しで完全体が完成する。ほんの一時、この思案する時間までもがおしい。
どこからともなく無粋な侵入者の元と思われる足音が、あちらこちらから耳に不快に入ってくる。
なんとも無骨で愚かしい者たちだろうか。
「…来るか、この絶対的な存在にひれ伏すために…」
ロイは嘲り笑う。
「お前たちの畏れ戦く姿が手に取るように分かる…あぁ、見える、見える。すべて何もかもこの最高芸術の前にひれ伏す、生物史上の頂点に君臨するこの素晴らしき神に!!」
ロイの何かの歯車は完全に狂い、そして新たにその歯車はかみ合わさっていく。
不意にあのゴーストの自身の娘に似た亡者の姿が脳裏に過る。
「なんのつもりなんだ…私に何をさせたい?何故こんなものが浮かんでくる!?」
ロイはまるで分からない問題に悩む無垢な子供のように首を傾げる。それは一人ではない、またもう一人、と数が増えていき頭だけでなく心までもその姿に埋め尽くされていく。
「違う!違う違う!!」
ロイは、自身の周囲をしつこく飛ぶ煩い蠅を振り払うかのように手を必死で払う。
「そんな物知らない!私にはもう必要のない!!」
ロイは再び押さえつける。自身の忌まわしい記憶を、何を今更となってでてくるのかと嘆きたい。もう遅いのだ…。
「さぁ、眠りから覚めろ!!我が芸術よ!!」

硬質で何やら不思議な感触のする床を強く踏んでいく足音。
死者に哀悼をささげる喪服の様な黒いマントは羽織った黒で統一された姿と、それに相反するしなやかで優しくなるような温かみのある緑に統一された服装の姿の男女。
その後ろからつき添うように進むフワフワと浮かぶ未知なる浮遊体。一体は上品なドレスに身を纏った幼い少女、もう一人は使用人の着る服に身を纏い少女の従者といったところか。幼さがあるものどこか落ち着きのある風貌。
その一行が先を進む通路の壁は同じ色が続きどこまでも広がっている。一本道なのにまるで迷路のように感じてしまう、果たしてこの先に終点はあるのだろうか。
「!?」
「どうした?アレン」
突然アレンの足が止まりエリスはアレンの顔を覗き見る。
「…行き止まりだ」
「えっ、行き止まり?」
エリスは少し訝しげに片方の眉を吊り上げ、その先の通路を見る。
さっき巨大な化け蜘蛛を倒した空洞に繋がっていた通路の先、まるで長い糸のように続くその先は無機質な白い壁に塞がれていた。
アレンはどこかに隠し通路があるのではないかと思案し辺りに目を凝らす。天井を見ると、よく分からない細長い管の様な長い棒状の物(パイプ)が天井から壁へと伝いながら延々と来た道の壁に続いている。
「どこも異常はなさそうだが…」
「困ったことになりましたね、アレン様」
「壁をすり抜けようとしたけど、何故かすり抜けられないよ…」
アレンは各々の反応を聞き流し通路を陣取る壁に近づく。目を凝らしてみただけでは分からない、となると直接手で触れてみれば何か分かるはずと考えに行き着く。
「なっ!?」
壁は突如観音開きになりその先の通路が現れる。これもまたロイ=ロッドケーストの造りし未知の技術なのか。
ただただ驚かされるばかりであった。
「ん!?いつの間にか道が…」
「うぉ!!何だか肌寒いな…」
エリスは両手を豊満なあの部分の下で腕組んで寒々と身震いをしている。突如壁が扉のように開き、そこからヒュウヒュウと肌寒く感じる風が吹いている。どうやらこの通路は外の世界と繋がっていたようだ。
壁の先はまだ一本道の通路が長く続いていた、しかし景観は何もない虚無を感じさせる白色に塗られた壁は無く、広々とした岩肌の空間があり天井からは白と灰色が入り混じりつらら状に下がった岩がある。通路の手摺から下を覗くと奥に吸い込まれそうな断崖の下は透き通った湖の様な
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