「どういうことだ…?ハングドマンからの連絡が無いだと?」
屋敷の地下研究室にて、ロイ=ロッドケーストは今までに無かった異例の事態に困惑の表情をあらわにしていた。
「馬鹿な…侵入者に倒されたというのか?いや、あれは駄作ではなかったものなのに、くそぉ…侵入者め、もしや新魔物派の国が送りつけたエージェントか?ふざけた真似をしよって…」
ロイは傍のデスクに激しく拳を叩きつけ、憎々しげに言葉を吐く。長い間地下に籠って研究ばかりしていたため、ロイの周りは塵と埃まみれで掃除はほとんどされていない。埃が舞ってその一部がロイの気管に入りロイはむせて咳をする。それが更にイライラを助長させる。
「くそ、なんだこの様は…」
むせてむせた後、ロイは額のこめかみを押さえつけイライラを抑制しようとした。ほとんど飲まず食わずの日々を過ごして、だんだんカルシウムや他の栄養素が不足しているのだろうとロイは思案する。
「もしや連中はここの存在に気付き、ここに来ているのだとしたら…」
不意に大きく目が見開かれる、寝る間も惜しんでいった日々を赤く充血した目がそれを証明している。とんでもない、連中にこの研究成果を渡してたまるか、研究資金援助を惜しみなくしてくれた、この素晴らしき芸術を造らせてくれた“あの男“にあわす顔が無い。
「絶対に阻止せねば、この芸術は誰にも渡さない。いや、渡すものか消さなければ…消さなければ…」
ロイは呪詛を唱えるかのごとく、その言葉ばかりをオウムのように繰り返した。
「ここが、ロイ=ロッドケーストの書斎か」
「はい…ここが旦那様の書斎です」
アレンの目の前には大きな扉が立ちふさがっていた。ここだけ妙に部屋の造りは違い、一番離れの位置にある。明らかに扉に施されている装飾も他の部屋の扉とは違う。
「…いいのか?扉を壊しても」
扉の装飾はとても高価でエレガントに感じる。壊すなんてもったいなく感じてしまい、エリスは少しだけ扉の前から身を引く。その後背後からエミリアがいたずら半分に驚かし、エリスは半狂乱のパニックに陥り周辺を行ったり来たりを繰り返している。
(相も変わらず…このアホトカゲを一度でも真面目に脅威に見ていた自分が馬鹿らしくなってくる、さっきのあの感情を返せ…本当に)
アレンはこめかみ辺りに、じわじわと侵食し始めるイライラの波を必死に親指で、押さえつけて洪水をおこさないように努力をする。全くこんな奴が何故あの化け物に勝てたのかおかしい、これは何かの間違いだと。
「ぶっ壊すぞ…」
アレンは扉に体当たりをする。
「……」
扉は思いのほか簡単に壊れ、書斎への侵入を安易に許した。
部屋の中は当時のままと変わっていないのだろうか、長い間物が動かされていないのがよく分かる。中央にブラックのシンプルなインテリアソファーが置かれ、オールガラスのシンプルで統一されたデザインのテーブルがあり、その奥には仕事用として使われていたような、本ばかりがきちんと整理して納められているデスクがある。それもどれも埃がかぶり皆眠るようにして佇んでいる。
「ずいぶんと洗練された物の選びだな、私は嫌いじゃない」
いつの間にかエリスが元に戻り、顎に手を当ててさも偉そうに語り始めた。
アレンはその言葉を無視し黙って部屋に足を踏み入れる。そして奥のデスクの元へ行くと、適当に整理された本を抜き取り何気なくページを開く。正直なことを言えば、アレンは部屋のインテリアセンスなんてどうでもいい。
「…何をお探しになっているのですか、何もおっしゃらないので…」
「…悪いが少し黙っていてくれ、作業に集中できない」
アレンの内心は今、さっきのあの化け物を自分一人で片づけられず、エリスにいとも簡単に倒され自分の痴態をさらしてしまったことをひきずっていた。本来ならばあんなことにはなっていなかった、自分の力をあまり過信し過ぎたということなのだろうか、そうだとしたら自分はなんて愚かだろうと自嘲気味の笑みを浮かべる。それだけではない、エリスが倒してくれなければ自分は死んでいた、それはエリスに助けられたということになる。
(くそ…なんでだ…借りはつくりたくない)
実はアレンはエリスに礼を言えていなかった。それは素直ではないから、はたまた余計な天狗だったプライドが邪魔をしているのかは定かではない、こういうことはアレンの人生で初めてだった。
「…おい、突っ立ってないでお前も作業を手伝え」
まだアレンはエリスに高圧的に言う、思わぬ発言にアレンは内心しまったと思った。だがエリスはそんな様子に嫌な顔一つせず母のような温かい包容力で、それに黙ってこたえる。
(エリスお姉ちゃん健気だなぁ…)
エミリアはエリスの反応に大きく驚嘆する。ただ、普通はこんな反応されたら絶対に人は寄り付かないのにと。
アレンは適当にめくっていた本の内容に大
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