第七話 狂える少女

「目指すは最深部、ボス部屋と直結しとる『マナ供給路』をそのまま下るで!」
「ラジャ」

 例の誰かさんはダンジョンマスターの許可なく迷宮のマナを喰い続けているという。もしそいつがいるとしたら、迷宮と地脈との接続地点、迷宮の最深部だろうという推測だ。ちなみにソースはシレミナ。
 その証拠に、

「シレミナ、牽制頼むぞ!」
「ラ〜ジャっ!」
「があああああああっ!」

 これ以上は行かせまいとダンジョンマスターが迫って来ている。当然だ。ヤツは、自分の根城に忍び込んだネズミをとっちめるために俺達を喰いに来てるのだから。これ以上進んでネズミとかち合っては喰いそびれてしまう。

 シレミナがその華奢な腕を上げ、『エアバレット』をセレクトキャストする。
 風弾だ。カマイタチもとい、『エアスラッシュ』とは違い、相手を切り刻まない不殺の弾丸がサハリの肉体を操っているダンジョンマスターへと向かう。おそらくは黒鞭で防がれるか、サハリの高い身体能力で避けられるかするだろうが、目的は時間稼ぎだ。問題ない。
 そのはずだったのだが。

「『がおおおおおおおおん』!!」

「はあ!?」
「ちっ! ヌン(原初の水)か。腐ってもダンジョンマスターっちゅうわけかい!」

 サハリが咆哮を上げると同時に、その身をシャボン液色の膜みたいなものが覆ったのが見えた。多分そのせいだと思うのだが、シレミナのエアバレットがサハリの体を通り過ぎた。魔法だけを透過させる魔法か何かだろう。
 いや、それよりも、

「ちょ、シレミナ、あれって詠唱なの? がおーだったんだけど! 詠唱ががおー!?」
「そういうあれもある。学問上、厳密には詠唱やないんやけどその話はまた今度や。今は口よりも手動かし!」
「それ言うなら足だろ!?」

 ダッシュダッシュダッシュ。
 ただひたすらにBダッシュ。黒鞭のハードルをAジャンプ。

 魔法を透過させるダンジョンマスターに対して、シレミナは風弾を壁に当て、その一部を弾き飛ばしたり障害物にしたりして、なんとか追いつかれないように誤魔化し続けている。ここが狭い迷宮の中で助かった。広い平原なんかだったらすぐに追いつかれていただろう。まあ、相手がサハリじゃなかったらさっさとぼろ雑巾にしてやってるところなのだが。そこんところ、ダンジョンマスターには感謝していただきたい。

「見えたっ! あれやで!」

 長い下り坂の追いかけっこの果て、これまでの通路の光とは明らかに違う、青く明滅する光を漏らす入口が見えた。
 あれがこのダンジョンの心臓部? そう思った直後、いやらしくも黒鞭が入口を覆い始めた。……確定だな。

「ちっ、間に合わん!」

 シレミナが黒鞭を薙ぎ払おうと片手を突き出す。だが、よく見ればその黒鞭にもサハリと同じシャボン液色の膜が覆っていた。魔法じゃ駄目だ。すり抜ける。
 即座にそう判断して、俺はひょいっとシレミナを抱きかかえる。

「は?」

「全速前進DA!」
「ちょ、ま、ぎにゃああああああああっ!?」

 走り幅跳びの容量で突き抜ける。シレミナはお姫様抱っこしてるから多分大丈夫だろう。
 背中からの着地した直後、入口が黒鞭で完全に覆われ、腹に響くような衝突音が響き渡る。気分は敵性宇宙艦に核ミサイル仕込んだパイロットだな。


◇ ◇ ◇


 広い。東京ドームのような広さと形の部屋だ。ダンジョンマスターの部屋なんかより断然広い。もしかすると、ソーラーパネルなんかと同じで広ければ広いほど地脈から取れる『マナ』とかいうエネルギーの採取量が増えるのかも知れない。
 その真ん中にはぽつんとミイラの腕のような、枯れ木のようなものが一本立っている。あまりに天井が高いため、ちっぽけに見えるがそれでも十メートルはありそうだ。その根元からはまるで木の根のように赤、黄、青のカラフルな線があたかも時限爆弾のコードのように部屋の隅々まで伸びている。
そのせいだろうか、深海にいるかのような圧迫感と、泊まっているホテルに張ってあったお札を剥がしてしまったかのような不安感が混ざりあって、体と気分を重くさせる。

「待った?」
「?」

 部屋の中央、枯れ木のような柱に座り込んでいた一人の少女が口を開いた。
 金髪のサイドアップテール。青いカッパに黄色い傘。シレミナよりも少し上、中学生くらいの幼い少女がこちらを見ている。彼我の差は百メートル以上ある。しかしそれでも感じた。あれは異常だ。人と――少なくとも俺と――仲良しこよしで付き合える存在ではない。
 こんなにも、目の前のものに対して恐怖を感じたのは初めてだ。

「傘、返しにきたの? 危ないよ 遅くなちゃった こんなところに落ちちゃって 不可能 殺す? この世界じゃ玉座は手に入らない」

 だから、それが不可解なことを言っても、長
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