◇ シレミナ視点 ◇
「壁、薄いなあ」
「そーだね」
リカと一緒のベッドに腰掛け、そう漏らした。
隣から荒っぽい息遣いとベッドが軋む音が聞こえて来る。
義兄上はいいとして、義姉上は下半身の蟲駆がでかいさかいにベッド壊れるんとちゃうかなあ。一応、ここは『この街が用意した隠れ家の一つ』っちゅー訳やけど、別に質が高いものが置いてある訳でもあらへんし。
案内された部屋はベッドが二つに丸い木製テーブルが一つの簡素なもんやった。ただ、ほとんど利用されとらん部屋のはずなのに塵一つ落ちとらん。中々まめな主人のようや。
ふむ。なんや、いつもより声抑え気味やね。セフレ――やのうて、顔見知りの友人に情事の音聞こえるんが恥ずかしいんやろか。どうせ我慢できへんようになってくるに決まっとるのに、難儀なもんやなあ。いや、我慢出来なくなってくる過程が大事なんか。
わても、段々と我慢が効かへんようになってきとるからなあ、これ聞く度に。最終的にはどうなることか。我慢は毒やと言うけれど、ほどほどに使えば薬になると思うてる。――媚薬やけどな。
今でこそ義兄上をある程度信用しとるけど、わては初め、義姉上が連れ返って来た男を喰ったって聞いたときはほんまに大丈夫なんかと心配やった。
その男は一見するとひょろっとはしとるけど若くて食べ応えのありそうな只の人間に見えた。そやけどその実態は、どんな攻撃をも弾き返す鉄壁の体の持ち主やった。しかも、義姉上の身体を傷付けた実績付き。
ほんまやったらど突き回してその辺に放逐するところや。実際、義姉上が気に入りさえしなければそうするつもりやったし。
危険や、そう思ったんや。明らかにわてらの手に余ると。
防御一つせずに義姉上の、ギルタブリルの尾針を弾き、クレイモアでさえ骨折どころか傷一つつかへん、魔法の炎も氷も駄目。そんなのは化け物や。神の加護を受けた勇者か英雄以外にありえへん。上位の魔物、それこそリリムやデーモン、バフォメット様が出張ってようやく安全に無力化できる、そんな男やと。
もし、ここが魔界やったとしたらいくらでも安全マージンをとれた。が、ここデミトリー砂漠に魔界はあらへん。精々微小な準魔界が北の方にぽつんとあるだけや。
もっとも、そういうこと言うんも義姉上を傷物にした男が嫌やったという事実が大きいんやけど。
どうせその内、そのとんでもない力使うてさっさと義姉上のもとを去っていくに違いない。そう思っとった。
けれども、あの時――義姉上とともにダンジョンに落ちたとき、あの男は逃げへんかった。わてが旧魔に襲われた時も、風魔法で出口を探り当て、その経路を教えても、義姉上がダンジョンマスターに憑りつかれて襲ってきた時も、結果は同じやった。
意外と、悪うないんとちゃうか? 次第にそう思えるようになってきた。
魔物は、初めは相手を無理矢理抑え込み、最終的には魔物の体躯の虜にしていくのが常套手段やけど、あの男は――義兄上は魔物の魅了が効き始める前から義姉上に執着しとったような気がする。
一目惚れか、体の相性か。どっちにしろ、このまま義兄上が義兄上のままであればええと思う。
さて、義姉上のことはこの辺でええやろ。
大事な大事な義姉上が身を固めたんや。次はわての番を考えんとあかん。
候補は、今んとこおらへんのよねえ。義姉上が男作ってからと思いつつも、義姉上が中々作ってくれえへんかったから。それにサンサバルド街からの依頼でその辺の魔物や地質の調査もやっとったさかいに。
――ふと、黒髪黒瞳の少年の姿が浮かんだ。
いやいやいやいや。
ないないないない。
それはないわあ。
(姿形は悪うないよ? でもなあ、義兄上は義姉上のもんやし……)
――何を躊躇っとるんや。別に義姉上のものを横取りする訳やない。ほんのすこーし、わけてもらうだけや。義姉上に前もって頼めば何の問題もないやろ? 義姉上はそこまで器の小さな女やない。
(今手を出すのが問題なんや。義兄上がまだ義姉上の体に完璧に依存してない可能性もある。そーいうことを承諾した義姉上に対して義兄上が不信感を抱く可能性もある。二人の関係に僅かでも皹が入ったらどないするの?)
――義兄上と呼んでおいて手を出さないなんて、魔女としてどうなんや? 『あの方』に顔向けできるんか?
(だから、時期の問題やねん。今はまだ早すぎる。それにあの呼び方も、初めは誘惑して義兄上の本性を探るため、そしてそのままわての体も使うて逃げへんようにするためのもんやった。今、手を出したら当初の目的が駄目になる)
――そうか。でもその時期とやらは何時来るん? 例えわての理性が待っとっても本能までは待ってくれえへんのよ? 今、わての指が何をしとるんか見てみ。時間はあら
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