サンサバルドに近づくにつれ、見えてきたのは下草だった。
サンサバルドはデミトリー砂漠随一の巨大湖、アクィレアン湖から水を引き、それを街周辺の田園地帯に流して用水路としているらしい。
こんなところにまで草が生えてきているのはそのせいだろう。
俺はそんなものを見ながら、うきうきとした足取りで進んでいた。
もちろん、今まで歩いてきた疲労が一周して逆にテンションがハイになってしまったとか、そんな理由じゃない。
ただ単に景観が変わって来て浮かれているだけだ。
砂漠を照らす太陽光や喉の渇きは俺にとって問題にならない。前者は俺の物理無効なチート体質によって、後者はシレミナの水魔法によって解決済みだからだ。しかし、短調な景色まではどうしようもない。最初の方こそ『気分は西遊記!』だったんだが流石に飽きた。
そこに来ての初植物である。いくら雑草とは言え、心躍るというものだ。
しかも、さらに先に行けば今さっき聞いた田園風景まで見えて来るという。
砂の海にぽつん、と現れる小麦畑(仮)。土壌とか水路とか色々と気になる。小学生時代のピクニックや初めて行った友達の家なんかを思い出すなあ。
――初めて行った友達の家……うっ、頭が。
俺の浮ついた気分を目敏く感じ取ったのか、シレミナがいつものアレを披露する。
「何はともあれ、もう直に東街道が見えて来るはずや。サンサバルドに着いたら色んなもんが見れるで。デミトリー砂漠有数の図書館『サンサバルド大図書館』を始め、『アクィレアン大聖堂』、『水門大闘技場』、『サンサバルド大展望台』。それにこの街でしか食べられない珍しい魚介類なんかも……」
出ました、シレミナwiki。この世界についてぽんぽんと解説してくれるのはいいが一気に言うので最初の説明は話半分で聞いた方がいいと評判のシレミナwiki(俺調べ、俺まとめ)。
閑話休題。
しばらく進むと、今までの下草よりもやや背の高い草が遠くの方で密集しているのが見えた。恐らく、あれが畑で、その真ん中を真っ直ぐ走っている線が東街道なのだろう。
大体道幅は十メートル弱ほど。その入口の脇のところには、何やら掘っ立て小屋のようなものが。あれは何なのだろうか? 農家さんちか、もしくは納屋かな?
「シレミナ、あれってなんだ?」
「あれは小麦畑やね」
小麦? 砂漠で育つの?
って、そっちじゃない。
「いや、あっちの掘っ立て小屋の方だよ。やっぱり農家さんちか?」
「ああ、あっちは駐屯小屋やね。街道の入口だけやのうて田園地帯の外周に一定間隔で建ってて、そん中で兵士が変なもんが畑に入らんように見張ってんねや」
なるほど、要するに交番か。
「ふーん。じゃあ、あそこで交通税とかを払ったり、街に入る理由を聞かれたりするのか?」
「うん? それは門番の仕事やで? あそこの兵士たちの仕事はあくまで外敵の排除や農夫たちの避難誘導や」
外敵とは主に遊牧民や凶暴な巨大生物のことらしい。大体駐屯小屋にいるのは五〜八人ほど。彼ら彼女らは別にエリートという訳でもないが常に危険な場所に身を置いているおかげで屈強な肉体を誇り、グレースパイダー(ホワイトスパイダーの原種。全長五メートルほど)程度なら五人パーティーで倒してしまうという。さらに街の中でふんぞり返っている貴族騎士と比べて親しみ易い連中が多い、とのこと。
うん。絵に描いたようないい人たちだな。
なんて健全なポリスメンなんだ。
「でもまあ、一応リカは義兄上の中に隠れといてくれるか。万が一めんどいやつがおらんとも限らんからなあ」
「ラジャ〜であります隊長!」
シレミナはいつの間に隊長になったんだ。というか何の隊長になったんだ。
――まあ、いいか。
すっ、と理花が俺の中に――なんかこの言い方嫌だな――俺の体に隠れる。
霊体を活かしたパーフェクトな密入国方法だ。ミッション・イ●ポッシブルに出演できる。
健全なポリスメンを騙すようで悪いが、シレミナ曰く『どこでもやっとること』らしい。
実体がない故に頭数に入れにくい上、そのほとんどが物理的干渉を受けないので捕縛しにくい。魔法攻撃によって吹き飛ばすことは可能だが、密入国程度ではそこまでできない。
よって、ゴーストやその他の実体を持たない魔物の密入国というのは半ば黙認されていることらしい。
スパイ入り放題だな。実際、魔物に厳しい国では見つかり次第、吹き飛ばしているそうだし。
そのまま、交番――もとい、駐屯小屋の横を通り過ぎる。
見えた範囲にいたのは三人だ。テーブルを囲ってカードゲームを興じているのが二人、真面目に外の俺たちを見ているのが一人だ。
カードゲームやっている二人はどちらとも俺よりやや年上に見えるぐらいの男女だ。死角にな
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