第九話 自爆スイッチ

「ふ、いきなり何を言い出すかと思えば。昏睡状態からどうやって戻ったかは知らないが、どうもまだ寝ぼけているようだな。さあ、さっさとベッドに戻り給え」

 先の水流をヌンとやらで無効化したらしきダンジョンマスターが戻って来る。余裕の笑みを浮かべ、泰然と構えるダンジョンマスターの前でシレミナが黒鞭に捕えられていく。その黒鞭もヌンの輝きを放っていた。
 しかし、

「やられ役の長話に付き合うつもりはないのう」
「なっ――――」

 シュパッ、と全ての黒鞭が悉く薙ぎ払われた。
 魔法を透過するという、ヌンのその性質を一切を無視して。

「馬鹿なっ!? まさか隠し玉の『ウィッチクラフト』とでも言うのか! しかし――」
「長話に付き合うつもりはないと言うたのにのう。やっぱりお兄さんの言う通りに耳にクソでも詰まっとるんかのお?」

 シレミナが瞬く間にダンジョンマスターとの距離を詰め、古武術のような当て身を見舞った。
 げぶうっ!? とサハリが吹っ飛ば――ない。吹っ飛んだのはサハリの体から抜け出た薄紫色をした何かだ。
 サハリは糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 シレミナがその小さな掌でその何かを掴み取った。
 それは人の形をしていた。ただし、上半身だけだ。下半身は、というか足がない。人魚の尾鰭が水面で揺れるような感じで、有り体に言って幽霊のようだった。
 そういえば、途中で遭ったゴーストの下半身もあんな感じだったような気がする。とは言っても、そのゴーストたちはずんぐりむっくりで髑髏の仮面をしていたのに対して目の前にいるそれは随分とスレンダーだ。身長は足がないせいでよくわからないが、その体格からして俺と同い年の女性に見える。
 腰まである長い薄緑色の髪をした女性のようだったそれは、今はシレミナに締め上げられている。

「くあっ……こお……ころ、せ」

 にたり、と締め上げられながらも笑みを崩さない。まるで『殺せるものなら殺してみろ』と言っているようだ。死を恐れない、ゲーム画面の前で胡坐を掻いているプレイヤーのような。

 ふん、鼻息一つ。シレミナだ。

「安い手じゃ」

 片手間でそれを締め上げていたシレミナが、貫手でその鳩尾を貫いた。
 余裕ぶったゴーストの少女はその表情のまま固まった。
 そのままゆっくりと手を引っこ抜くと何かがマトリョーシカよろしく現れた。
 ずるりとゴーストがシレミナから零れ落ちる。

「残念じゃったのう。霊体のダミーまで用意しておったのに、それすら見破られて。これで残機ゼロじゃ」

 現れたのは人の首によく似た造形の砂嵐だった。テレビのあれだ。
 目、口、鼻、耳のそれらが影のグラデーションでしかわからない、異様な存在だった。
 それは野太い声で叫ぶ。

「ばげ、ぐ……ば、馬鹿なっ!? どうやって、一体全体どうやってえええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!?」
「以下略」

 『ごぶ』とか、『ごびょ』だとかいう、そんな断末魔だけを残してそれはシレミナに叩き潰された。最期の最後、本当にあっさりと。まるで喜劇でも見ているかのようだった。

「特異点」
「?」

 ふと、シレミナがぽつりと零した。

「お兄さんたちにとっての今がわしらにとっての未来であり、わしらの今の行動の結果、本来起こり得ない現象がお兄さんたちの今に起こる。そのわしらが座すべき位置が特異点」

 能面のような顔だった。魔物でも人でもない。アンドロイドであるかのような冷たい表情。だが、それも次の瞬間には霧散し、人懐っこい小動物のような雰囲気と微笑みになった。

「すまんの。人は死と孤独と未知を恐れるが故、説明をと思ったのじゃが、余計訳わからんくなったかの?」
「訳わかんねえけど、あんま怖くはねえかなあ。ただ意味不明なことが連チャンで起きて混乱してるだけ。……って、こんな話どーでもいいな。兎に角、礼を言わせてくれ。助かった。ありがとう」

 座り込みつつ頭を下げる。もうずたぼろだ。立ち上がれやしない。

「ふむ。やっぱりええ子じゃのう、お兄さんは。ほれ、小遣いやろおのう」

 じじ臭いなあ。やっぱりというか確信的にというか、前に夢に出て来たじーさんがシレミナの中にはいってんのかねえ?

 とか思ってたらもにゅっ、と腕に柔らかいものが押し当てられた。シレミナのちっぱいだ。

「ってあんた人の体でなにしてのおおお!?」
「ん? だってわし今持ち合わせないもん」
「だからってパクったもんあげようとすんなよ! こっちが困るわ!」

 中身じーさんの幼女に手を出すとか上級者過ぎる……じゃなかった。意識のない相手に手を出すとか俺の倫理観が許さないよ。

「……そんなことよりも、回復魔法とかかけてくれません? 皆ぼろぼろなんすよ」

 そう言いつつぷらん、と両
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