「『ファイアショット』!」
覚えたての火属性魔法が雨合羽の少女へと飛んでいく。
俺が唯一使える魔法、そして遠距離からの攻撃手段だ。
火玉の大きさは野球ボール程。それは衝突とともに爆発し、音と閃光、衝撃波をまき散らす。理科の実験で行う水素爆発の何十倍もの規模だ。当たればただでは済まない。
あくまで当たれば、だが。
「ちっ」
彗星のように尾を引きながら飛んでいった火玉はしかし、少女が持つ軍刀に切り裂かれ、その背後で爆散した。
時速九十キロメートル程度の速度とはいえ、それを断ち切るとは中々の動体視力と反射神経だ。……って、関心している場合じゃない。
「『ファイアショット』『ファイアショット』『ファイアショット』」
一度で駄目なら何度でもだ。当たるまで撃ち続ける。
三発の火玉にさらに二発追加する。六発目を放とうとして、鈍い痛みがこめかみを突き抜けた。
MP切れか? いや、確かこれはオーバーフロー(出力限界)だ。一度で撃てる魔法の限界量。これ以上撃つには少しの間がいる。
俺はそのまま五発の火玉の行方を見守る。いくらなんでもこれだけの数を切り捨てるのは無理があるだろう。もし何か他に手があるなら明かしておきたい。というか相手の手札は全て明かしておきたい。どうせなら安全確実に対処し、パターン入りたい。
ぞふり、と少女が軍刀を地面へと突き刺す。
途端に上がる白煙と鼻に付く刺激臭。やはりあの軍刀も強酸の性質を持っているようだ。
(しかし、何をする気だ?)
床の石畳を溶かし掘ってやり過ごすか、はたまた軍刀を置いただけで別の武器を吐き出すつもりか?
そんな推測をする俺の前で、少女は思いっきり軍刀を振り切った――床に刃を突き刺したまま。
その刃に追従するように、溶けた石畳が津波となって全ての火玉とぶつかった。
爆発する火玉。飛び散るかと思われた灰色の津波はびくともせずに俺を飲み込もうと迫ってきた。当たると何故か爆発する火玉と同じで、魔法的力を持ったものなのだろう。基本的に魔法はマナを込めれば込めるほど、頑丈さが上がる。そして魔法同士がぶつかり合う時はその法則に沿ってより多くのマナが込められた魔法が競り勝つ――とシレミナが言っていた。
俺は右に飛び去って、津波をやり過ごしてファイアショットを放つ。狙いは少女の足元だ。石畳を砕くほどの威力はないが、目眩ましぐらいにはなる。その隙を突いてもう一発放つ。今度は見事に入り、少女の躯体がくの字に曲がる。
少女は苦し紛れに軍刀を振るうが、圧倒的に間合いの外だ。俺は少女が態勢を直す前に仕留めようと一歩踏みだした。
その直後、視界が揺れた。
原因は右手。いきなり俺の意思とは関係なくぐいっと動きだしたのだ。
「くっ!?」
今度は俺の態勢が崩れ、片膝をつく。そこに少女が躍りかかってきた。
「あは」
語尾に星マークでも付いてそうな声のトーンで得物を振り下ろしてきた。
俺は必死に床を転がりつつそれを回避する。白煙と異臭を放ちつつ、刃が床を貫通する。石畳がまるで豆腐のようだ。というか、溶かし切っているというには些か切れるのが早すぎる気がする。切れ味自体も恐ろしく高そうだ。
すぐに軍刀は引き抜かれ、少女の刃が鼻先を掠める。その切っ先の軌跡に合わせるようにまた、右手が動く。
(くそ、何がどうなってる?)
念力か何かなのかと右手を見るが、何もない――いや、あった。
黒く変色した肌が周りの肌を引っ張るように蠢いていた。
どうやら自分が溶かした無機物や炭化させた有機物を操ることができるようだ。
俺はとりあえず今の現状を打破しようと、炭化された皮膚が引っ張る方とは逆の方向へと思いっきり腕を引っ張った。
――ブチィッ!
「っでえええええええええええ!!?」
当然のように変色した皮膚が千切れ、血が舞った。炭化したところだけを取るつもりだったが、周りごと抉れてしまった。この体質、思った以上に毒に脆いな。ヴァンパイアかよ。
とりあえず、仕切り直しだ。
前を見ると、少女がまだぶんぶんと軍刀を振って、何故か首を傾げていた。もう炭化した部位はとったぞ。それとも炭化した血液を使って俺を内部からずたずたにしようとしているとか? まさかな。
もう向こうのタネがないか少々心配だが、さっさと片をつけてしまおう。
彼我の差は十メートル弱。それを五メートルまで詰める。着弾までの距離が短ければ短いほど、対応しにくくなるはずだ。その分こっちのリスクも増えるが、今度こそ片をつけよう。
少女が軍刀を突き、払う。どうしても払いは避けられないが、仕方がない。右腕で受け止める。
――ガッキィン!!
受けると同時に甲高い金属音が響き渡る。そして白煙と、神経を貫
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