2. 踊る幽霊、回る(前編)

浮遊感。
重力が逆さまになり、天は足元、地は頭上。
どうしてそんな状態になっていたのか。
どうして、私は落ちていたのか。
あの時の記憶は空のまま。
ただ、確か。
目の前には、誰かがいた。
記憶の中で、その人に問いかける。
『貴女は、だれ?』
それはあの時と同じなのか、返事がない。
『貴女は、生きなさい。』
返事が無かったはずなのに、誰かが
私に言った言葉が、幽かな思い出の中で
木霊していた。

繋学園高等部、1年3組。
授業前、クラスはしんと、静まっている。
静かになっている理由は、授業前だから、というわけではない。
ぽっかりと空いた一席が、静かに彼らを黙らせていた。
学校のチャイムが鳴り響く、授業の合図だ。
チャイムがして、少ししてから、教師が重い表情で教室に入った。
教師が、教壇に着く。
「おはよう、ございます。」
「…。」
誰も、元気に返事を返さない。
「…もう、噂になっているかと思いますが。
我がクラスの、出席番号12番、『菊内 奏(きくうち かえで)』さん…が、
昨日、お亡くなりになられました。原因は…ただ今、警察が調査している
とのことですが…。」
「…飛び降りだろ。」
誰かがボソッと言った。
教師は口を閉じる。
言った本人も、教師の言葉を遮るつもりなど
なかったのだろうが、私が言いましたと
でも言うように、そっぽを向いた。
「滅多なことを言うんじゃない!」
教師はあえて、全体に伝わるように言い放った。
教室には、より重い空気がかかる。
「…本当に、悲しいことです。皆さんも、
変な噂を立てないように。噂を聞いても、
言い広げたり、構ったりしないように。
良いですね?」
皆、俯きながらも、心の中で納得出来ずにいた。
菊内さんは、明るく、頭の良い人だった。
特別、誰かのグループにいた訳では無いが、
逆に何処かに所属していた訳でもないため、
気軽に話しかけ、一緒に遊び、仲良くしていた
人は多かったと思う。
だからこそ、何故死んだのか、何故そんなことに
なってしまったのか、皆、気になっていた。
「…さて、話は変わりまして、今日は転校生が
来ております。」
…こんな日に、転校してくるとは相当運が悪い。
このタイミングじゃなくて良いじゃないか。
明日にするとか。
皆が思い思いにざわつき始めた。
「どうぞ、入って下さい。」
「はーーい。」
ガラガラと教室の扉が開かれる。
「…転校生の「菊内 奏(きくうち かなで)さん、です。
…『ゴースト』の亜人です。皆さん、仲良くしてあげて下さい。」
「よーろしくおーねがいーしまーすー。」
全員が、唖然としていた。
思い出がフラッシュバックする。
『奏さん、今回もテストの点数いいね!』
『えー!昨日一緒に遊んでたのにー!』
『ふふっ、ヤマカンが当たっただけだよ。』
菊内さんは、頭が良く、謙虚な人だった。
『好きなもの…?やっぱり、こうやって皆と一緒にいたり、
遊んだりすることが好きかな。』
「えっとぉ、好きなものはー、ママのハンバーグぅ、だった気がするなぁ。」
なんだこのバカそうなやつは。
誰かが思った。
「あっ!みんなと遊ぶのもー、好きだよー!」
なんだこの可愛い娘は。
誰もが思った。
「…他には、ございますか?」
「うーんとねー、えーとねぇ。」
小さな子が大袈裟に悩むように、菊内さんは腕組みをし、左右に揺れた。
「仲良くして下さいっ!」
「…以上です。」
うおおおおおおお!!!
教室が、湧いた。
喜びと、驚きと、ヤケと、色々と、ごちゃごちゃの感情たちが渦となり、
歓声という形で吐き出された。
1年3組は今日、菊内さんを中心とした話題で、授業が消えた。

--奏ーー!
-おー!
--私のこと!覚えてる?
-…ごめんねー。昔のこと、あまり覚えてなくてー。
--そ、そっか。ユウっていうんだ、私。
-おー!ユー!これからー、よろしく?こんごとも、よろしく?
--…ははっ。こんな形で、もう一度奏に会えるなんて思わなかった。
-…悲しい?
--ううん!嬉しいよ!
今まで色々教えてもらった分、今度は私が教えてあげるね!
-ユー!ありがとー!だいすきー!
--…えへっ、へっへっへ…えへへへ…。
-…?

---奏さん!大丈夫ですか?
-うーん?何がー?
---えっと、その…。
----バカ、守。下手に聞こうとするな。
---あ、ごめん。
-なーにー?
---え、えっと…。
-かなでねー、隠しごときらーい。
---…まぁ、いっかぁ
#12316;。ふらふら
#12316;。
----どこ行くねーん!…奏さん。
-なにー?えっと、たなばし?
----高橋です。いつ、ゴーストになったんですか?
-うーんとねー、今日、だったとおもうー。
----あまり、自覚が無いんですね。
-そだねー、でもー、昨日のことが思い出
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33