「いけそうか?」
「うーん、柔らかくなってるみたいではあるんですけどぉ……」
一仕事終えて砂中に身を潜める、ラムと名付けられたとあるサンドウォームの口の中。そこでは人型をしたそのサンドウォームの本体と彼女の名付け親であるテザがある物と睨みあっていた。
「やっぱり、服じゃないと上手く溶けませんねぇー……」
「……ん、いや、だいぶ脆くなってるからこれなら多分無理矢理壊せる。ちょっと離れててくれ」
「ほ、ほんとに大丈夫ですかぁ?怪我しないでくださいねー……?」
心配そうにしながらもその場を少し離れるラムを他所に、テザはそれと向き合う。彼女の目の前に置かれているのは木箱、先程の襲撃でラムが手に入れた物で大きさは以前ラムがテザと一緒に飲み込んだ、今はもう跡形もない袋の三倍以上はあろうかという大物である。
ガッチリと釘が打ち付けられている頑丈な箱で、釘抜きなんて気の利いた物があるはずもないラムの口内で二人は一時愕然としたが、無限に湧き出るサンドウォームの粘液を木箱自体に染み込ませることで木材が柔らかくなって壊せるようになるのではないかというテザが思い付いた妙案を現在実行中なのであった。
テザが粘液まみれになった木箱を軽く指で押すと押した方向に少し木が軋む。時間という概念が彼女の中から無くなってしばらく経つが、それでもかなりの長時間と思える間、木箱をラムの粘液に浸した甲斐があったというものだ。後はこの箱の中身が、今二人が必要としている物であるのを祈るだけ。
箱を壊すのはテザの役目である。常時全身から粘液を分泌しているラムの摩擦係数ゼロの拳は木箱に一切ダメージを与えられず、なんならたとえ普通に開く木箱であったとしても蓋の僅かな取っ掛かりに手を引っ掛けてそれを開くという動作すら彼女には出来るか怪しい。
テザは足場の悪い柔らかな床をしっかりと踏みしめ、深呼吸をして拳を作った右手を高く挙げる。
そして──。
「はぁアァっっっッッ!!」
雄たけびと共に目にも止まらぬ速さで一直線に真下へ振り下ろされた拳は狙った部分に命中して、同時に少し湿った破裂音がその空間に響いた。
テザは手元を眺める。自分の拳の下には衝撃に耐えかねて見事にひしゃげて凹んだ木材のひび割れがあった。
割れた木の破片を剥ぎ取るように無理矢理取り除くと遂にその中身が露になる。どうやら衝撃で中身の物がが破損したということも無いようでテザはほっと一息ついた。
「だっ、だだだ、大丈夫ですかぁ!?すごい音してましたよぉ!?」
「あぁ、中身は無事だ。我ながら上手く外側だけ壊せた」
「違いますよぉ!!テザさんのお手々ですぅ!!怪我してませんかぁ!?」
動揺したラムが破壊された木箱には目もくれずテザの元へと近付いて、打ち付けた衝撃でヒリヒリと熱を持つその右手を両の手の平で包み込む。見たところ怪我はしていなかったが痛くないと言えば嘘になってしまうので、テザは自分の右手を包む二つの手を左手で優しく撫でて素直にラムの心配を受け取ったことを彼女に示した。
「大丈夫だ、ありがとうラム。それよりも、これ。見てみろ」
テザがラムの両手から離した左手を木箱に空いた穴に突っ込んで次々に中身を取り出し、並べていく。
そこには魚の干物や南蛮漬け、ソーセージにハム、そしてチーズ、さらには調味料や香辛料、ラムの好きそうな果実や野菜のシロップ漬け、氷砂糖と言うのだろうか、テザが見たことも無いほどの大きな粒の砂糖に至るまで、様々な食糧が入っていたのだった。これだけあれば二人で食べても当分は飢えることは無いだろう。この箱を荷物としてどこかに運んでいたのか、それとも砂漠を渡る食料だったのかは分からないがラムはかなりの大当たりを引いたと言えるだろう。テザは自らが並べた食糧達を見て満足げに笑った。
そして、その箱の中でもテザが特に歓喜したのが。
「これは……っ、酒!!でかしたぞラム!!今日は宴だ、宴!!」
「わー?」
丸い瓶を箱から取り出したテザは片手で器用にその瓶の蓋を開けて一瞬匂いを確認する。そしてすぐ蓋を閉め、珍しく興奮を露にして未だに隣で手を握っているラムの頭をグシャグシャと撫で回した。当のラム本人はよく分からないがテザが喜んでいるので何か良い物があったのだろうとにこやかに笑っている。
その後、箱の中身の確認を終えた二人は今日食べる物を適当にいくつか並べて残りをまた箱に仕舞い、二人の食事が始まった。木箱の中には先程取り出した物を含め同じ酒瓶が三本、違う形の酒瓶の、おそらく違う種類であろう酒も同じくらいの本数ずつ入っており、しばらくは酒にも困ることも無い様子である。
「テザさん、これなんて書いてあるんですかぁ?」
ラムが中央に置かれた酒瓶を手に取ってラベルを見なが
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