留 ーとどまるー

それからしばらくの日数が過ぎた。

その間、相も変わらず燦燦と全てを焦がす日差しが照り付ける砂漠地帯を通過する人影は一つもなく荒涼とした砂と岩の大地には時折、風切り音が響くのみで生物の気配はない。
その地中、件のサンドウォームは以前と全く同じ位置で一切動くことなく砂中にその巨体を横たえている。外見だけで見ればそこに変化は無いがその内側は少しばかり変化していた。


「……腹減ったなぁー」

「……そうですねー、お腹すきましたぁ」


床に項垂れる二人の女性、テザとラムの緊張感の無い声が柔らかな肉に覆われた空間に吸い込まれて消える。一瞬の静寂が二人を包んだ後、ぐぅう、という腹から空気の抜ける音が二つ、重なって響き渡り二人は顔を見合わせて笑いあった。

結論から言ってしまえば、テザにとってその空間はそれなりに不自由もなく、ある程度快適に過ごせるものであり、彼女は同居人であるラムとも意気投合していたのだった。粘液によりテザの衣服はもうほぼ残っていないがそれがむしろラムとの壁を取り払う一因になったのかもしれない。
尤も前述したようにテザはあまり寝床に頓着する質ではないので彼女にとっての『それなりに不自由もなく、ある程度快適に過ごせる』空間という物はかなり振れ幅が大きい。それでも、もう何日か程生活しているこの空間は下手な安宿よりも快適であるとテザは考えているのだった。
その大きな理由は安定した温度と水分が確保できていることである。サンドウォームは砂漠の乾燥や砂埃、昼夜の寒暖差などから柔らかな内部をを守るため、頑丈な甲殻に加え砂中に潜むことで完全に外気を遮断しているようで内部の気温は常に快適なものだった。
そして水分。テザが現在飲み水としているのは彼女の衣服を完膚なきまでに消失させたラムの粘液であるのだがなんと摂取しても害はない。初めて口にした時は流石のテザも恐る恐るであったが、その粘液は仄かに甘い風味を彼女の口いっぱいに広げ喉を潤したのだった。それからというもの、テザはそこら中から滴るその粘液を手に掬い、躊躇いなく飲み干している。
しかし、そんな空間にももちろん問題はあった。完全に外の様子がわからないので昼夜や日付が全くわからないとか服がいつの間にか無くなってしまうなんていうのはテザにとって些細な問題である。それよりももっと深刻な問題。

そう、食糧が尽きたのである。

その空間にあった食糧はラムがテザと一緒に飲み込んだ保存食、そしてテザの衣服のポケットにたまたま入っていた食べかけのレーションだけであった。
長丁場になることを考えテザは食べる量に注意していたのだが、それでもやはり多くはない食料を二人で分け合うとなると消費はどうしても早くなってしまい、今残っているのはラムがあまり手を付けない野菜の酢漬けなどの酸味の強いもの、魚の塩漬けなどの塩味がきついものだけである。それらも、もうあまり多くは残っておらずこのままだといつまで持つだろうかとテザは空腹に苛まれながら考えていた。


「ラムは好き嫌い激しいよなぁ、もうこれしかないんだからピクルスも塩漬けも文句言わずに食えよ」

「だ、だってぇ、美味しくないんですもん」

「ジャムだと思えよ、あれ真っ先に食べつくしただろお前」

「無理ですよぉ!」


口を尖らせ文句を言うラムをテザは笑いながら眺める。甘い物が好きらしいラムはそこにある食糧の中でジャムだけを異様なペースで頬張り、あっという間に瓶を空にしてしまったのだ。酢漬けと塩漬けというラインナップしか残っていないのも大体はペースを考えない、というよりも考えはするのだが本能に抗うことのできない様子のラムのせいである。ちなみに彼女が綺麗に食べつくしたジャムの瓶はテザのコップとして第二の人生を送っている。

冷静に考えてみると、状況はあまり良くない。いつ通るかも分からないサンドウォームの獲物を、ここにあるわずかな食糧で待つ。はっきり言って餓死してもおかしくはない。
しかしながらテザはどこか楽観的であった。やはり一人ではないということが大きいのだろうか。野菜の酢漬けを一切れ摘んで口に含んだ途端に表情を歪めるラムを見ながら彼女はそう考える。

ラムの容姿はテザも見とれてまうような年上の妖艶な女性であるが、その実、内面は完全に少女であった。ずっとこの空間で一人だったという彼女にテザが商隊に付き従っていた旅の話を語ると面白いほどにクルクルと表情を変え目を輝かせて特にオチもない話に聞き入る彼女に元来分かりやすいものを好むテザは異形と人間という垣根を越えて好感を持っているのだった。


「はぁ……この野菜も魚も甘くなればいいのにぃ……うぅ」

「そんなに甘いもんが好きなのか」

「そうですねー。でもやっぱり、一番好きなのはおと──」


ラムがそこまで言ったと
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