融合

時刻は日付が変わる少し前。
照明の落とされたその部屋には、ユウが布団の上に寝転がり薄いブランケットに包まっていた。一見眠っているように見受けられるがその目は開いており、どこを見ているのか心ここに有らずといった様子である。投げ出されるようにしてブランケットの外に出た左手は頻りにモゾモゾと蠢き、どうやら絆創膏の貼られた薬指が気になるようで頻りに親指で引っ掻いたり、中指と小指で挟んで擦ったりしていた。
突如、彼が左手の動きを止めて暗がりで自身の顔の上に翳してぼんやりと見つめると、灯りを付けて上体を起こしまたしばらく自らの左手を眺めた。ふと、何かに気がついたようにゆっくり顔を上げ、そのまま周囲を見渡して正面の何もない空間に視線を向けた後、灯りを消して再び横になった。


「今日は、随分と五月蝿いんだな」


誰に言うでもなくユウは闇にむかってそう呟くと静かに目を閉じて眠りに就いた。


◇◇◇


翌日の放課後。前の日と同じように生徒達が佳境に入り始めた文化祭の準備に熱心に取り組む中、ユウとチカの二人はある場所に向かって並んで校内を歩いていた。
定番の喫茶店やお化け屋敷などが開催される予定の教室付近の廊下は出し物に似合うよう華やかに、或いはおどろおどろしく飾りつけが行われているが今二人が向かっている階段裏の物置部屋に向かう道筋にそれはなく、むしろ賑やかで活気のある区域との対比で普段より一層物寂しく見える。


「私、ここ来たことないかも……」


「まぁ、あんまり教室とかないからな。普段使わん部屋ばっか並んでるとこだしこの辺……と、ここか」


階段を昇らずに脇のスペースから裏手に回ると清掃が行き届いていないのか床には目視できるほどの埃が積もっていて一歩歩くとそれが舞い上がって充満し、二人は思わず顔をしかめる。さらに進むと、上部には元々何かの目的で使う部屋だったのであろうことを示す文字が印字されているはずの部分にガムテープが貼られ、その上から掠れたペンで『物置』と書かれた札がある、塗装が剥がれたボロボロの金属の扉が備え付けられていた。
学校の中でも辺境と言っていい位置にあるこの部屋は見ての通り物置らしい。らしい、というのは二人が生徒会長からの「ここに物置があるから中にある物をチェックしてくれ」という指示で初めてこの空間の存在を知ったからである。
どうやらこの部屋は代々我が校の生徒会執行部が管理する、生徒会室に置けない備品を置いているらしい部屋なのだが最近この部屋の合鍵が学校に出回っていて無断でここに侵入している人物がいる可能性があるという噂が会長の耳に入ったため調査として二人が派遣されたのであった。しかし。


「まぁ、噂はデマだろうな」


「ですね」


振り返って二人分の足跡がくっきりと付いた埃まみれの薄暗い廊下を見ながら呟く。ここ一ヶ月ほど学校は休みだったとはいえ、歩いただけでここまで跡が残るのはこの場所が年単位で放置されている証拠だろう。誰かがここに訪れているのであれば他の足跡も付いているはずだろうし、そもそも目の前の扉の錆び付いたドアノブにまで埃が積もっていることが、ここ最近この扉が誰にも使用されていないことを物を言わずとも物語っていた。
この部屋に不当に出入りしている者がいる、というのがどこから出た噂かはわからないがこの様子では自分たちを派遣したのは会長の取り越し苦労だったのだろうとユウは考える。噂がある以上その真偽を確かめなければいけないことは理解しているので別に怒ったりしているわけではないが、無駄足を踏まされた落胆が無いわけではなかった。


「はぁ、どうせ誰も使ってないだろこれ」


「でもせっかく鍵貰ったんだから中見ていきましょうよ。会長の指示も『中にある物をチェックしてくれ』でしたし」


チカはそう言うと会長から渡されたシンプルな鍵に付けられたフックに掛けるための金属のリングに人差し指を通してクルクルと回してニヤリと笑った。その表情は自分に与えられた仕事を全うするための義務感よりも扉の先に広がる未知の空間に対する好奇心がありありと見て取れる。
先程思わずため息をついたユウも、目の前の古ぼけた扉の向こうに興味がないわけではなかった。


「まぁ、それもそうか……でも開くのかこれ、ノブまで錆びてるけど」


「開かないならその時は帰りましょう、と……」


チカが鍵を躊躇いなく鍵穴に突き刺す。しばらく左右にガチャガチャ動かしていると、じゃりっという砂を噛んだ時のような嫌な音がした後、無言でノブを回して外開きの扉を小さく開け、開錠が完了したことを示した。


「……開きましたねぇ」


「……開いたな、入るか」


「あ、センパイ。やりたいことあるんでそっち側の壁の方行ってもらえます?」


ユウが何をするのかと不
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