カサカサカサ
闇夜に紛れ、蠢く不気味な影が一th……いや、三十ほど。
家主である一人暮らしの浪人生が眠りに着いた頃、奴らは動き出す。まぁ昼間でも活発に動き回るのだが。
家主の浪人生は無精者であるらしく、掃除洗濯は全くされていない。部屋には大量のゴミが散らかり、食べ物の残りカスまでそのままだ。そのためか、彼の部屋からは常に異臭が立ち込めている。おまけに本人からも、汗や皮脂の匂いがする。
しかし奴らは通常の人なら瞬時に顔をしかめるようなその匂いが大好きなのである。しかも食事提供までしてくれる。だからこの空間はとても居心地がいいものなのだ。ある一点を除いては。
カサカサカササ
(隊長! 隊員17がホイホイ、ホイホイの中に入ってしまいました!)
カサカ?! カサカカサササ!
(何ぃ?! だからあれほどB地区には近付くなと言ったのに。奴はもう助からん。C班は迂回して安全なルートを通れ! A班B班は私に続け!)
カサササカ!
(ラジャー、隊長!)
浪人生とて馬鹿ではない。無精が祟れば奴らが沸くことは知っている。だからホイホイを設置したり、時にはスリッパや雑誌などを使い、肉弾戦で奴らを排除しようと試みているのだ。そのせいで、はじめ48匹いた奴らの軍団は、30匹にまで数を減らしていた。
夜のハンティングを終えた奴らは、住み処である床下へと戻っていった。
カサカ?
(今日は昼夜合わせて何人減った?)
カカササ! カサカカカササ
(報告します! 昼に圧死が5匹、夜にトラップに引っ掛かったのが1匹です)
カサササ?! カサカサカサ……
(圧死が5匹?! あいつ、段々私たちの速度に順応しているぞ。早く手を打たねば……)
カサカサ、カサカカサササ
(いい加減オス連れてきて交尾して子供作って隊員増やさないとヤバイですって)
隊員の中の一人が訴える。奴らは以前、別の家に居着いていたが、そこのオス達と反りが合わず、メスのみで今の家へと移って来たのだ。そのせいでどうも奴らの隊長なるものは、オスに対して懐疑的になっているきらいがある。
カサササカサカサ。カサササッカッカッサ。
(……それも考えなければならないな。明日の昼は会議に当てる。それまで各々休息を摂るように)
カサササカ
(ラジャー、隊長)
奴らは基本的に睡眠はとらない。しかしやはり疲労には勝てず、夜の狩りを終えてから朝日が昇るまでの数時間はぼんやりと過ごしている。
その時、ちょっと世界が180度変わるほどの出来事があったなど、奴らには知る由もなかった。
一番初めに変化に気付いたのは隊員達に休息の終わりを告げる当番になっていた者であった。
「隊長ぉぉぉぉ! 大変ですぅ!」
「どうした! まさかあいつ、私たちの住み処に感づいたか!」
「違います! 隊長、私たち、足が二本無くなってます」
「何ぃ? そんな訳ないだろ」
自分の手足を確認する隊長。しっかりと二本足で立ち、二本の腕が付いている。
「ほら、なんともなって……なくないな。……ええええぇぇぇぇぇ!!!」
以前の奴ら、いや彼女らは六本の足を駆使しなければ、地面を動くことは出来なかった。しかし、今は二本の足だけで立ち、移動も割とスムーズに出来ている。
さらに出で立ちも今までとは大きく異なっていて、硬く、黒光りする茶色の甲殻の割合が減り、その分ふにふにで柔らかいものが備わっている。その姿はまるで
「あいつみたいじゃないか」
あいつとはもちろん家主の浪人生、指しては人間のことである。彼女達は女性の人間のような体を手に入れたのだ。
「これは一体どういうことだ……ん?」
このことを知らせに来た隊員に意見を求めようとした時、彼女の目線が隊長に釘付けになっているのに気が付いた。
「どうした? 私の顔に何か付いているか?」
「隊長ぉ……かわいいですぅ」
言うが速いかその隊員は隊長へと飛び付いて来た――のだが、隊長の名は伊達ではなく、それを難無くかわすと隊員の頭にげんこつを入れた。
「何をするか」
「イタ気持ちいいです隊長ぉ」
「真性のドMかお前は。しょうもないな」
「もっとキツイ言葉で罵って下さい隊長ぉはぁはぁ」
「残念な美少女か、まったく」
先程、このドM少女は隊長のことをかわいいと言ったが、その本人もそんじょそこらにはいないほどの美少女なのだ。
ツッコミを入れて少し落ち着いた両名は、普段食事や会議をしている。広間にと足を運んだ。
するとどうだろうか。広間にはすでに隊員全員が集まり、互いに交わったり、一人で慰めたり、ほぼ全員が淫らな行為をしていた。
もちろん、全員姿が変わっている。
「さぁ私たちも早く! 縄と蝋燭と鞭は私が用意しますから」
「よし、私がいいと言うまでその場でスピンスピンしろ」
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