「来たか」
「何が来たかだよ、この色男。あたしら三人をはべらせようってんだろ」
「カンちゃんの、すけこまし。おんなたらし。うわきもの。」
「それではあらためて、ちゃんとお話ししましょうか。ろくでなしさん」
服も何も脱ぎ捨てた三人に、勘介は囲まれていた。自分も素裸で。
覚悟はしていた。聞かせてやろうとさえ思っていた。
それでも、いろいろとちぢみあがる心もちだ。
「知っていたのか」
「知らないはずないだろ」
「わたしたち、一心同体なんだから」
「そうか。そうだな」
勘介はがっくりとうなだれた。
その前でハヤテが、なにひとつ隠さず仁王立ちになる。
体の白い部分が、ほんのり赤くなっている。
ソヨは額の汗をぬぐっていた。
「さあ勘の字、なにか申し開きはあるか」
「・・・何もない」
「じゃあ、あたしたちのこと、どうするの?」
「しあわせにする。 なんとしても」
「どうするおつもりですか?」
三姉妹は、素っぱだかの勘介をまるはだかで責め立てた。
ソヨはにこにこと、ハヤテはにやにやと、シマキはにっこりと。
「・・・働く。 身を粉にして」
「粉になられちゃ困っちまうぜ?」
「あたしたちのこと、ほっといちゃうの?」
「ほっとかぬ。 三人まとめて、面倒見てやる」
「あらあら。 大きく出ましたわね」
「粉しか出ないんじゃねえか?」
三人は、それはそれは嬉しそうに笑って、勘介を追いこんだ。
しかし、勘介は、笑っていなかった。
「・・・ ・・・ ・・・」
言葉を重ねるごとに、まるで斬首を待つかのような面もちになる。
脂汗が垂れ、顔色まで土気色になっていく。
「お、おい。勘介?」
「体・・・ つらいの?」
「違う、そうではない。 ・・・俺は、まだ、言えなかったことがある」
「・・・勘介さん?」
「どうしても、どうしても、おまえたちに言えなんだことがある。
墓の底まで持っていこうと思っていた。だが ―」
ただならぬ様子に、三姉妹の笑みも消える。
勘介は神の前でおのが罪を懺悔するかのごとく、言葉を吐き出す。
「おまえたちが、おまえたちがほんとうに、俺のものになる。
そう思ったら、話さずには、おれなくなった ―」
― 誓って言う。 俺はお前たちを恐れたことなどない。
魔物であることは承知で、俺よりもはるかに強いことなど承知で、
それでも怖いと思ったことなど一度たりとてない。
だが、だが、それでも俺は―
俺は。 俺は ―
おそ
おのれが魔物になるやもしれんことが、 怖 ろしかったのだ ―
三姉妹の顔が、こわばった。
「俺は、魔物は恐れん。 魔物が怖いのではない」
シマキの顔が曇る。
「おのれがおのれでなくなることが、怖かった。 どうしようもなく、恐かった」
ハヤテが唇をかみしめた。
「そばにおまえたちがいてくれるとしても。 それでも、俺は・・・」
ソヨの目が涙でうるんだ。
「俺は、臆病者だ。 卑怯者だ ―」
震える勘介の肩を、シマキがいだく。
「あなたは、臆病でも卑怯でもありません」
「シマキ・・・」
「なにかに変わり果てることを恐れるのは、人として、あたりまえのことです」
「・・・ ・・・ ・・・」
「あなたがそういうことをひとことも漏らさないことのほうが、
わたしたちは怖かった」
「ちゃんと言ってくれれば、よかったのに」
「あたしたち、いまさらそんなの気にしなかったんだぜ。
別に、初めて言われたことでもないし、さ」
膝の上で白くなるまで握りしめられた拳を、ハヤテとソヨが両掌でくるんだ。
「ハヤテ、ソヨ」
「嫁がどうのだって、あたしら、何の気にもならなかったんだぜ」
「あたしたち、一心同体なんだもん」
「わたしを選ぶことは、ハヤテとソヨを選ぶこと。
わたしたちのだれか一人を選ぶことは、わたしたちみんなを選ぶこと」
「だからあんたが、あたしたちを三人とも選んでくれて、ほんとに嬉しかったんだ」
優しい言葉だ。 どこまでも自分を気遣ってくれる、優しいことば。
勘介は、そう思っていた。 しかし。
「そう言ってくれると、俺は救われる。だが・・・」
「あなたの思っているような意味ではないのです」
「・・・なにっ?」
シマキの声に、ひややかなものが混じる。
「別にあんたに気を使って言ってることじゃないんだよ」
「ほんとに、ほんとうに言ってるまま、そのまんまなの」
「なんだって?」
ハヤテとソヨの声にも、冷たいものがはしる。
これまで一度も聞いた
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